今では母親の顔さえも思い出せないでいる。

物心がついたときには…捨てられていた。


それでも私には家族がいたから、寂しくはなかった。

みんながみんな、笑いかけてくれる、それだけで幸せだった。






「ルラ!!勝負だ!勝負!」

「……」



ぎゃあぎゃあと耳元で叫ばれるのも気にせず、ルラは黙々とご飯を進める。



「たくっ…おい、ナツ。ルラの飯の邪魔すんじゃねえよ」

「久々にルラが帰ってきてんだから、邪魔すんなよ!グレイ!」



先ほどからルラの隣で騒いでいるのが、火竜の異名を持つフェアリーテイルの一員であるナツだ。

そしてそのもう片方にいるのが氷の造形魔道士であるグレイだ。

二人はルラを挟みながら、バチバチと火花を散らす。



「……ミラさん、おかわり」



しかし、ルラはやはり動じることなく皿をカウンターにいたミラ、と呼ばれたミラジューンに差し出す。

すると後ろを向いていたミラがこちらを向き、ルラに微笑みかけた。



「あら?…ルラ、今日は食べるわねー」

「んー…まぁ」

「ふふ、たくさん食べてね」



おかわりをついだ皿を持ったミラがルラの前に皿を置いた。



「ありがと…で、ナツ、グレイ。苦しい」



ぺシンと軽く両隣にいたナツたちを叩く。



「ってぇええええ」

「っ…!!」



しかし、ナツたちには十分だったらしく。

二人とも頭を押さえながら床で転がり回る。



「ふぁ…ナツ。また今度ね。またすぐに任務に行かないと…」

「!、何でだよ!!」



一気に平らげ、欠伸を手で隠しながら立ち上がる。

しかし、その言葉に納得がいかなかったのか、ナツがまたルラに詰め寄る。



「…そんな顔しないでよ、この依頼が終わればしばらくは近場でのんびりしようと思ってるから。だから今は行かせてくれる…?」

「…ほんとか?」

「本当。私はお前たちとの約束は破ったことないでしょ?」

「おう!」



ニシシと笑うナツにルラも小さく笑い、ポンポンとナツの頭に手を置いた。



「行ってくるね。…みんな、しばらく留守にします!いってきます!」



そして、身を翻しルラは扉に向かった。



「「「ルラ!!」」」



扉を開けようと手を伸ばせば、名を呼ばれ振り向く。



「なに…か」

「「「いってこい!!」」」

「…はい」



ああ、温かい。

ルラはまた小さく微笑み、今度こそフェアリーテイルを後にした。








end