雪降る中、私は母様と共に墓参りに来ていた。
「今日は冷えるねぇ」
「そうですね、きちんと上着は羽織ってくださいね」
「それはアンタだよ、悠。そんな格好で出てきて、風邪引いても知らないよ、アタシは」
タバコを吹かしながら、母様は呆れたように笑う。
傘を差してあげながらそれを横目で確かめ、ゆっくりと目的である墓に近付いた。
一瞬だが、血の匂いがした気がした。
「悠、饅頭出しな」
「はい」
母さまは線香に火をつけ、私は饅頭が入った紙を広げた。
そこでやっと私は墓の後ろに人影を見つけた。
不思議だった、まるで気配がしなかった気がする。
私は母さまに目配せをするが、母さまは気にすることなく、饅頭を私から取るとそこに置いた。
「おい、ババァ。それ、饅頭か?」
私が小さく合掌していると低い声が聞こえた。
どうやら、彼は生きていたらしい。私は着物で隠している刀に触れながら様子を伺う。
「食べていい?腹へって死にそうなんだ」
だが、男から殺気も何も感じず、すぐに刀から手を離した。
「…こりゃ、アタシの旦那のモンだ。旦那に聞きな」
母さまは少しだけ、悲しそうにそう言った。
すると男は「遠慮なく」と言ってのそのそと動き、饅頭を食し始めた。
勢いよく、食べていくのを見れば本当にお腹が減っていたのだろう。
途中で喉を詰まらせるぐらいだ、私は持ってきていたお茶を無言でその男に近づけた。
本の一瞬だったが、チラリと髪の間から赤い目が見えた。
飲み物が欲しかった男は私の手からそれを奪い取るように取り、ゴクゴクとお茶を飲み干した。
そしてまた饅頭にがっつき始める。
「何て言ってた?アタシの旦那。」
そこで母さまが気になっていたのだろう、旦那に聞けと言ったのだ、男は何かを聞けたのだろうか?
「知らね、死人が口利くかよ」
「罰当たりな奴だね、祟られても知らんよ」
本当に呆れたように母さまは言った、私も内心呆れたが、間違ったことは言ってないかとも思った。
「死人は口も聞かねえし、団子も食わねえ。…だから、勝手に約束してきた」
「この恩は忘れねえ、あんたのばあさん、老い先短い命だろうがこの先はあんたの代わりに俺が守ってやるってよ」
母さまが目を見開いた、多分、私もそんな感じだと思う。
急に何を言ってるんだろうとも思った…だがそれ以上になぜか、嬉しくなってしまった。
…まるで旦那さんと本当は約束してきたんじゃないだろうかと思ってしまったから。
「私を守る……お手並み拝見といこうじゃないか」
驚いていたようだけど、母さまはいつも通りに口端をあげた。
そして「着いといで」と言ってくるりと踵を返してしまった。
慌てて、私は追いかけようとしたがポンと頭に何かが乗って、ピタリと行動を止めてしまった。
「お前にも約束だ、何があっても俺が守ってやる。だからよ、女がそんなモン持ってんな。そんなモン、必要無えよ」
くしゃくしゃと頭を撫でられながら、やはり不思議だった。
顔を上げれば、優しそうに微笑む銀髪の男。そんなモンとは刀のことなのだろうと何となく思った。
そして私は身長の差があるものの、男の腕を肩に回した。
「…あんまり意味無いかもしれないけど、少しはマシだと思うよ」
そして、ゆっくりと引っ張りながら私は母さまの後を追う。
「私は…悠」
「悠な。坂田銀時だ、好きに呼んでいいぜ」
「…じゃあ、銀。よろしく」
「ああ、よろしく」
ゆっくりと歩みながら、ふと何故か、懐かしいような感じがした。
これが私と彼の出会い。
END