着替えを済ませ、塔の奥の方に向かい、一つの部屋の扉をノックする。



「ユリウスさま、私です」



返事は無い、この部屋では無かったか、とラルは首を傾げた。

でも気配があるのはここだけなのだが…と思っていれば、中でドタバタと大きな音がした。

あ、やっぱりいらっしゃった、と微笑み、取っ手に手をかける前に勢い良く、扉が開いた。



「ラル!」

「!?…」



現れたのは予想通り、主であるユリウスだったのだが、ユリウスはラルの名前を呼んだと思えば勢い良く、抱きしめてきたのだ。



「また、弾かれたのか、と思った」

「あ…いや、い、います。ここに、ハートの国の時は弾かれましたが、ほら…あの、引っ越しでまた巡り合えましたし、そこまで、気にするような」



あわあわとラルは暴れることも出来ないし、しかしどうして良いかもわからず、顔を赤くさせる。



「…!!す、すまない」



ユリウスもラルの様子にやっと気付いたのか、そして自分のしていることにも気づき、急いで身を引いた。

離れたユリウスはラルに負けないぐらい、耳まで真っ赤になっていた。



「……と、とりあえず、あの…部屋に入ってもよろしいでしょうか?」

「あ、ああ。」



お互い何だか気まずい中、ユリウスは人が一人入れる隙間を開け、扉を開けた。

ラルはそのままペコリと頭を下げ、先に部屋に入る。

入った瞬間温かい空気を肌に感じ、廊下は本当に寒いことを感じさせてくれた。



「温かい…」



自然と呟くように出た言葉にユリウスの眉間に皺が寄った。

そっとだが、ユリウスはラルの手を取る。



「?、ユリ…」

「冷たくなっているな、ブランケットでも被って暖炉の前にいろ。何より、出るときにアレを使ったんだ、体力も消耗しているだろう。今はゆっくり休め」



手を引かれながら、途中にあったブランケットを被され、暖炉の前に椅子に座らされた。

ラルはユリウスの優しさに申し訳なさを感じてはいたが、言われた通り、体は重い、今はゆっくりと休むことにした。


温かさを感じながら、ラルはゆっくりと目を閉じた。



『ラル』



もうすぐ夢の一歩手前で、誰かに呼ばれた気がした。

起きようかとも思ったが、奥底に引っ張られる感覚に身を任せるのだった。








「………」

「……なんで、会って早々、君は私を睨むんだ」



夢の中にいたのは、夢魔であるナイトメアだった。

ラルがなぜ、ナイトメアを睨んでいるかというと、勝手に夢の中に入られたからだ。



「…君は、本当に読めないな。しかし、大方私に入られたことにイラついているのだろう?」

「……」

「ら、ラル?」

「……」

「いや、その…私だって」

「……」

「…謝るから返事をしてくれ、頼むから!」



ふぅ、と何だか青白いナイトメアにラルはため息を溢し、やっと口を開いた。



「夢魔、私の夢の中に入るのはやめてくれない?それに…引きづり込むのも」

「…気づいていたか」

「まあ、起きようとしていたからね。で、何か用なの?」

「少しね、君に忠告をしておこうと思って」

「忠告?」

「余所者についてだ」

「…ああ、ユリウス様達が言っていた、えっと…アリス=りデルのことかな?」

「そうだ、君は最初はかなりの警戒心を向けるがそこまで気にすることはない。彼女はとてもいい子だ」

「ふむ、とりあえず、その子に危害を加えるなってことでいいの?」

「ああ、そうだ」



内心ラルは酷く驚いていた、あのナイトメアがそこまで気にする女性なのか…いや、余所者は皆から好かれるというし、きっと他の人たちもそうなんだろう。



「安心していいよ、私は君たちを敵に回す気はない」

「ふふ、君は話がわかって助かる」

「…まぁね。ああ、それよりちゃんと薬を飲んでいるのか?」

「ぐっ」

「それと病院も」

「うぐぐっ」



全力で目を反らすナイトメアにラルはまたため息をこぼした。



「その内、死ぬぞ」

「な!君はなんてこ…ゲホッ」

「ああ、言わないこっちゃない」



ナイトメアと少し離れていたラルは一瞬でナイトメアの背中に回り、擦ってあげる。



「う、ぐぐ…」

「ゆっくり、息を吸え。大丈夫だ、何も考えずに息を吸えばいい」

「…ふぅ、すぅ」



ナイトメアは言われた通りにゆっくりと息を吸い始めた。

それにラルも安心したように背中を撫で続けた。




しばらくして、ナイトメアの顔色は悪いものの、吐血は収まったようだ。



「夢の中に出て、寝た方がいいな」

「…君は」

「ん?」

「君も変わらないな」

「…そんなの、皆そうではないの?くだらないことを夢魔も言う」

「…そうだな、ああ、そうだ。君にもう一つ」



そろそろ、目が覚めるかな、と上を向上げていたラルはナイトメアの思い出したような声にもう一度、ナイトメアを見る。



「なに?」

「捕らわれてはいけないよ」

「…?監獄に?」

「ああ、そうだ」

「私に罪などない。毎回言っているだろう、三月ウサギでも帽子屋でもないし、ああ…彼らは違うか」

「それでも油断はしてはいけないよ、私は君と会えなくなるのは寂しいからね」

「…変な夢魔」



ポツリと呟くように言えば、浮遊感に襲われる。

ああ、目覚めだ、とラルは目を瞑った。



「ジョ…カ……」



覚める前にナイトメアがまだ何かを言っていたが、ラルには何も聞こえていなかった。








end