嬉しかったが、空気は悪いままだ。



闇に浮かぶ月



目の前に、血だらけの男。

その横に、先ほど足を噛んで、その傷口を舐める猫。



「あのー・・・とりあえず、立ち上がれるなら、私の家にどうです? 血滲んでますし、包帯ぐらい巻き変えてあげますよ。」



私も図太い女だと思う。

さっき、自分を殺そうとしていた男を家に招こうとしてるんだから。

面倒事は、しない主義なのだが・・・ここで、この人を見捨てても、何だかなと、溜息が出る。


男に近付いていけば、なんか変な顔をされた。



「・・・いや、わかりますよ。 何だ、コイツって気持ちもわかります。 でもね、ここで貴方を見捨てると、そこのきみに恨まれそうなんでね」



ねっと、猫の方を見てやれば、にゃ・・・と、嬉しそうに小さく鳴いた。



「・・・・・・」



何も言わずに、男は立ち上がった。

了承してくれたみたい・・・だが、



「だ、大丈夫ですか・・・なんか、ふらふらしてません? ちょ、そっち壁!?



ぶつかる直前に、男の目の前に回り込み、壁への衝突は免れた。



「ちっ・・・」


「(危なっかしいなぁ、この人)肩貸しますね・・・あまり、意味無いかもしれませんが」



自分は、チビだ。

しかし、だ・・・支えることは、出来なくても、壁への衝突等は回避できるだろう。



「頑張って下さいね、倒れたら、置いていきますので・・・ほら、猫もついてくる」



倒れたらを、主に強調しながらゆっくり歩き出す。



――――――



もうすぐ、家だ。

ここまで、会話は無かった・・・と言っても、私は気をつかって何も言わなかった。

男は本当、真っ白い顔をしてる。 



「・・・あの、もう少しですから。 着いたら、すぐに手当てします。 だから、頑張ってください」



苦しそうな息遣いに、声も真剣なものになる。


ともかく、早く・・・家に行かなければ。



――――――



「つ、着いた。 大丈夫ですか? 意識あります?」


「・・・ああ」


「ここに座って楽にしててください!。 これ以上、動いちゃ駄目ですからね!」



居間に、男を座らせ、確か棚の中にあった薬を出す。



「あった! よかった、塗り薬もある」



一通りあって、ほっとした。

すぐに、男の元にいき、包帯を外す。



「! かなり、滲んでますね・・・(暗かったから、わかんなかったけど、これはグロイ)」



よく、生きてるなこの人と・・・感心しながら、薬を傷に塗る。

男の目線が、かなり鋭くなっている。

・・・痛いんだろうな。



「我慢してくださいね、治りませんから」



気休めに言葉を、かけながらもさっさと、包帯を巻く作業に入れる。



「随分、手馴れてるじゃねぇか」


「え・・・あ、はい。 親が医者だったので、といっても、私は診れませんよ。 軽い事しか、やらせてもらえませんでしたから。」



私的には、親の跡を継ぎたかったが・・・親が許さなかったんだっけな?

・・・何でかは、もう昔のことだから、忘れちゃったけど。



「布団、ひきますね・・・怪我は、安静にするのが一番。 ほれ、猫ちゃん、けが人から離れる」



べったり、くっ付いていた猫は、そういうと、離れた。

やはり、人の言葉を理解できている・・・まぁ、そんな猫もいるでしょ。

私は、布団を居間に引き、寝るように男に言う。



「お前ぇ、何考えてやがる」


「それ、助けた時も言いませんでした? 私だって鬼じゃないです、流石に怪我人を外に放り投げることなんてしませんよ。 人の厚意は、有難く受け取ればいいですよ、・・・安心してください、寝てる所を襲ったりしませんから・・・逆に、私を殺そうとしないでくださいね」



睨んでくるのも、気にせず、私はさっさと、自分の部屋の襖に手をかける。

入ろうとした矢先、猫が足元で尻尾を振っていた。



「ん?・・・君は、あの男の傍にいてやんな。 無理するようなら、私を起こすといいよ。」



しゃがんで、ポンポンと頭を軽く撫でてあげると、猫は男の枕元に丸くなった。

・・・といっても、きっと私は一睡も出来ない気がする。



「(知らない人の気配があると、寝れないんだよなー・・・。 あと、またサイレン鳴り出したし)」



ため息を溢しながらも、 何をして時間をつぶそうか・・・考える。







END