とても、嬉しそうで・・・なんだか、こっちまで笑顔になってしまう。
少し、引っ張られた形だが、握れた手は案外、痛くない。
「エリオット、もう少しゆっくり・・・」
「あ、わりぃ!」
慌てて、エリオットは歩みを遅めてエフェルの方を向いた、そぃてじっと見つめる。
じっと見てくるものだから、少し身を引いてしまう。
「ど、どうしたの?」
「・・・俺、ずっとお礼言いたかったんだ。 ありがとな!」
「・・・・・・あ、うん。 どういたしまして、でも、エリオットのおかげでもあるんだよ」
ずっと、そわそわしていた理由は、どうやらこれらしい。
まさか、エフェルはお礼を言われるとは、思っていなかったみたいで、少しびっくりして、返事を返せないでいたが・・・照れたように、視線をそらした。
「俺? 何言ってんだよ、赤髪のおかげだろ?」
「ううん、エリオットが銃を教えてくれたから。 おかげで、私も無事だった・・・ありがとう」
「! あー、おぅ」
今度は、エリオットが視線を動かす。
エフェルは、そのエリオットの様子に笑ってしまう。
「・・・・・・」
「? どうしたの、エリオット」
「いや、何でもねぇよ。 ほら、着いたぜ!」
何で、こっちを向いて驚いていたのかは、よくわからなかったが・・・いつの間にか、町に着いていたようだ。
人が行き交う・・・賑やかだな。
「その主の家まで、送っていくか?」
「大丈夫だよ、ここまで来れば、帰れるから・・・ありがとう、ここまで送ってくれて」
「ああ、いつでも帽子屋屋敷に来ていいからな! 赤髪なら、大歓迎だぜ」
「うん、ありがとう。 あ、そうだ。エリオットも、怪我しないようにね」
「おぅ! ブラッドの足を、引っ張る訳にもいかないからな。」
本当に、ブラッドのことを慕っているんだろうな、と思いながら、一度エフェルはお辞儀をして歩き出す。
「赤髪!!」
エリオットの大きな声が、辺りに響く・・・いろんな人がこちらを見てくる。
エフェルは、顔を真っ赤にさせて、エリオットの方をもう一度、見る。
「えっと、何?」
「今度、一緒ににんじんケーキ食べような!」
「・・・う、うん?」
なぜ、にんじんケーキなのだろうか?と首を傾げるが・・・エリオットが、笑顔で手を振るので、小さくこちらも振り返して置いた。
そして、今度こそエフェルは、時計塔に足を進める。
「・・・綺麗な笑顔だったな」
その後ろ姿を見つめながら、エリオットがポツリと呟いた。
――――――
その後、時計塔に戻って、今日のことをユリウスに話せば、かなり呆れられた。
「お前は・・・・・・はぁ、帽子の意味がまったくないだろう」
「・・・も、申し訳ない。 そういえば、ずっと思ってたんだけど、なんでこの帽子、透けるの?」
深く帽子を被ったとしても、相手の顔が見える程度には透けてくれるのだ。
「特別な造りをした帽子だからな、安心しろ。 相手から、顔が見えることは無い」
「・・・凄い帽子なんだね、」
「ああ。 お前のために、作らせた。 しかし、帽子屋屋敷に行くとは・・・」
「あ、ごめんなさい。 まさか、私も帽子屋さんのとこにいくとは、思わなかった・・・」
嫌味ったらしく、言って来るが・・・これも私の為なんだと思う。
「ともかく、帽子屋屋敷には行くな。 こっちが、気が気でない」
「あ・・・うん。 私も怖いから、行きたくはない・・・」
極力は、行きたくない・・・でも、行かなきゃ行かないで、嫌な予感がする。
「ああ、それがいいだろう。 明日、遊園地に行く。」
「遊園地? えっと、ゴーランドさんが経営してる?」
「よく、覚えていたな・・・その通りだ。 三時間帯ぐらいは、帰っ―――どうした、エフェル?」
どこか、ほんわかした空気を出しているエフェルに、目を細める。
エフェルは、慌てたように手を前に振る。
「あ、ううん!? 何で無いよ・・・ただ」
「ただ?」
「・・・ちょっと、だけ楽しそうだなって」
散歩に出かけたとき、楽しそうな音楽、乗り物が目に入ったとき、入りたいとは思ったものの。
やっぱり、勢力争いも怖かったし・・・役持ちの人に会うわけにも、いかなかった。
「・・・先ほど、注意したばかりだと思ったが?」
「うっ・・・わかってる、おとなしく、留守番してるね」
残念だが、仕方が無い。
しゅんと、何処からどう見ても、エフェルは落ち込んでいた。
それに、ユリウスは今までで、一番大きなため息を溢してエフェルの頭に手を乗せて、撫で始める。
きょとん、とエフェルは、ユリウスを見つめる。
「一度だけだぞ・・・」
「! ありがとう、ユリウス」
パァと、エフェルは笑顔になる。
「お前は、本当にわかりやすい奴だな」
「? そうかな」
「ああ、昔からそうだ」
何処か、寂しそうな目でユリウスはこちらを見てくる。
そんな、ユリウスを見るのは初めてで・・・名前を呼んでみた。
「ユリウス?」
「・・・何でもない。 少し、寝ておけ。 私は仕事に戻る」
はっとしたように、ユリウスはさっさと、座って時計を直し始める。
エフェルは、一度それを見つめてから、おやすみと小さく言って、ベッドのほうに足を向けた。
何で、あんな目をしたか。私には、わからなかった。
END