「お前に、これをやろう」
差し出されたのは帽子。
シンプルな帽子、少し深め・・・だ。
「これを、目が見えないように被れ・・・私の前以外では、外すな。 いいな?」
よくわからないが、一応頷いておいた。
すると、ユリウスは安心したように笑った・・・いつも、この顔をしていればいいのに。
そしてぎこちなく、頭を撫でてくる。
今は、手が汚れていないのか・・・肌ではない。
「(・・・ユリウスに、撫でられるの気持ちいい)」
エフェルも、嬉しそうにまた何度も頷いた。
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あの時、ユリウスが抱きついてきたとき・・・そのまま、私は身をユリウスに任せた。
なぜだか、わからなかったが、あの時、この人になら・・・と思い安心できたのだ。
今、考えても不思議で仕方ない。
そして、次に目を覚ましたとき・・・ユリウスは心配そうな顔をして、隣に座っていた。
何も覚えていないと言うと、ユリウスは、この世界のことを教えてくれた。
でも、その時・・・目を反らしたり、何だかずっとそわそわしていた。
どうしたのだろうと気になって、聞いてみると・・・言いづらそうに、『こういうことは、慣れていない・・・』とブツブツと言い出した。
何だか、可愛いなと思ったのは内緒だ。
何より、それでも話を続けてくれる彼に、心底嬉しくなってしまった。
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帽子を貰い、今の生活にも大分慣れ始めた。
新しいことにでもチャレンジしてみようと思い、外に散歩に出てみることにした。
本当は・・・止められたのだが、何度か頼むとしぶしぶ外出を許可してくれた。
「外では、銃弾や人殺しなど当たり前の世界だ・・・私も一緒に行ってやりたいのだが・・・」
「仕事があるんだよね?それに、外は嫌いだって・・・無理しないで、ユリウス。 気をつけるから」
「・・・出来るだけ、早く帰って来い」
何も言わずに、頷くと・・・ユリウスも満足そうに、頷いた。
そのまま、扉を開けて出て行こうとすると・・・思い出したように、ユリウスが近くに寄ってくる。
「エフェル!」
「は、はい?」
「言い忘れていた・・・名前を出すな、顔も同様だ」
「・・・なぜ、駄目なの?」
ユリウスは、言うべきか迷っていたが・・・言っておこうと思ったらしく、口を開いた。
「お前は余所者であって余所者ではない・・・その為に、役持ちに見つかれば、色々不味い」
「? 余所者・・・(あれ?この言葉、どこかで)役持ちって、ユリウスみたいな人のことだよね?」
「ああ、特に帽子屋には近付くな」
「・・・うん、何度も聞いた。 よく、わからないけど・・・ともかく、顔と名前を出さなきゃいいんだよね。 大丈夫、約束は守るから! 行って来ます」
そんなに、危なくはないだろうと・・・エフェルは、軽く考え、ユリウスに手を振った。
浮かない顔をしているが、小さく手を振り返す。
END