パク・・・モグモグ
私は、何のためにここに、きたのだろうか?と、思いながら・・・鍋のお肉をもぐもぐと食べていた。
なんで、お鍋なんかを食っているのか・・・それは、真弘先輩に連れられ、居間に戻った私たちは、拓磨くんと話し合い、その話はまた今度にしようと言うことになり、それなら私も帰ろうと思ったのだが。
「え! 待って待って!」
春日ちゃんが、急に私を止める。
「え? どうしたの?」
「ほら、あのさ・・・えっと、名前。 教えてくれる?」
「なまえ? あ、そういえば自己紹介、してなかったね。私は、高夜 悠だよ。よろしくね、春日ちゃん」
そういえば、屋上で話せなかったから・・・名前も教えていなかった。
「うーん、ほら。同い年だから、名前でいいよ? 私も、名前で呼ぶし」
「そう? じゃあ、珠紀ちゃん。どうしたの?」
「悠は、私の命の恩人でもあるんだから! 一緒に、ご飯でもどうかな?」
え、と私は、顔を強張る・・・そう、言われたのは確かに嬉しいのだが、命の恩人なんかではない。
「そ、そんな! 私は、命の恩人なんかじゃないよ!?ほら・・・私じゃなくて、拓磨くんが多分、命の恩人なんじゃないかな?」
「ううん! 悠がもし、いなかったら拓磨が来る前に間違いなく、私・・・オボレガミに常世に連れていかれてたよ!」
「・・・オボレガミ?常世?」
聞きなれない単語が、耳に入る。
珠紀ちゃんは、しまったという感じで手で、口を塞ぐ。
周りを、見渡すと皆、いい顔はしてない。
「えと・・・何か、聞いちゃいけませんでしたか?」
沈黙に、耐えれなく・・・小さく、呟いてみる。
「まぁ、大丈夫でしょう。珠紀さんの命の恩人なんです。 ご飯ぐらい、食べていかれてはどうでしょう?」
答えてくれたのは、大蛇さんでそれと同時に、沈黙が途切れる。
「悠、食べていくといい」
「まぁ、確かにそうだな・・・ここまで、来たんだ。食べていけよ」
祐一先輩と拓磨くんが、それぞれ言ってくれる。
「じゃあ・・・せっかくなので、頂かせて貰います。」
「よぉーし! 悠!俺が、鍋の食い方ってもんをみっちり、教えてやるよ!」
真弘先輩も、嬉しそうに私の肩に手を回して、隣に座らせられる。
「ちょっと! 真弘先輩!悠の隣は、私が座るんです!」
真弘先輩と珠紀ちゃんが、言い合いを始めてしまう。
それを、わたしは苦笑しながら見つめる。
その間に、隣にに祐一先輩がいつの間にか、座っていた。
「「ああ!!」」
二人の絶叫が、響く・・・しかし、諦めたのか。しぶしぶ、二人も座る。
で、楽しく談笑しながら・・・時が過ぎて、最初に戻ります。
「はぁ・・・」
小さく溜息を、つきます。
「どうした?」
祐一先輩が、私の溜息に気がついたのか・・・声を掛けてくる。
「あ、いや・・・」
「楽しくないのか?」
「違います! むしろ、楽しくて楽しくて仕方ないのですが・・・こういう雰囲気は、馴れてなくて」
「あまり、人とは関わらなかったのか?」
それを、言われると困ってしまう・・・確かに、こんな風に人と楽しんだのは・・・一体、いつだったのか。
記憶を探しても、何もわからない、いっそ自分は誰なのか?・・・そんなことも、思ってしまう始末。
「・・・すまない、余計なことだったな」
頭を撫でてくれる。
祐一先輩は、人の頭を撫でるのが好きなのだろうか?
「あ、や・・・自分から、関わろうとしなかっただけですよ」
「そうか 理由を聞いても―――」
「あー、自分でもよくわかりません・・・ほら、さっき言ったじゃないですか?記憶が曖昧だと・・・」
「? 記憶喪失ということか」
「・・・た、多分似たようなことだと・・・所々、なんだか思い出せないですよね」
今も、何かを思い出せない・・・そう大事なことのはず、大事な大事なことを。
深く深く・・・何かが埋まっている。
「大丈夫か?」
「え! あ、はい。大丈夫です!」
そう答えると、祐一先輩はなぜか安心したような顔になる。
私はそれに小さく笑って応える。
「何か、あれば言うといい・・・俺で良ければ、相談に乗ろう」
「で、ですが・・・あ、いや、そうします」
途中まで、断ろうと思ったが・・・何だか、見つめられて了承してしまった。
「帰りは、俺が送ろう」
「・・・はい、えとお願いします」
頭を小さく下げる。
何だか、とても心が温まる感じがした。
「おーい・・・なーに、二人の世界みたいになってんだよ! 俺も帰りは着いて行くからな!」
少し、みんなの存在を忘れていて顔が、真っ赤になっていく。
「そ、そんな・・・ええ! も、もちろんですよ!」
「よし よく分かってんじゃねぇか」
頭をぐしゃぐしゃと、撫でられる。
「うわー! やめてくださいよ、ちょ」
笑みが零れる・・・こんなに、笑顔になって人と触れ合ったのは・・・一体、何年ぶりなんだろう。
周りを見渡す、皆こっちを笑いながら見ている。
何だか、本当に・・・懐かしい。
END