第五話~美しき仲間~
さて、どうしたものか・・・と私は、心の中で思ってしまう。
私の目の前で、人形の二人が言い争いしているからだ。
先ほどのことだ。
また、人形が動き出した。
その人形は・・・母に似せて作っているが、一応、男型で作っている。
その美しきさは、多分・・・女性にも負けてはいないだろう。
髪は長く、藍色で・・・目も色は一緒。
多分、そこだけが母とは違う。
「なんで! 君まで、動くんだよ!?」
「さぁ? 私は、ただルラ様の声が聞こえて動けましたからね」
「そんな訳、あるもんか! ありえない!」
二人をみて、小さく溜息が出る。
さっきまで、ラグトは声が出ないほど驚いていたが・・・急に小さく『ありえない・・・』と言い出し、私が作った美しき人形に詰め寄る。
しかし、美しき人形は取り乱しもせず、落ち着いた様子でラグトを対応している。
これでは、埒があかないと思い、私は声をかけてみる。
「ラグト・・・、分かるように説明してくれないかな」
私は、ラグトに説明を求めようとしたが・・・美しき彼が、急にこちらをじっーとみて来た。
「それは、そこの彼の名前・・・ですか?」
「え、ええ・・・それが、どうかしたの?」
「・・・契約を交わしたのですか」
彼の言葉に、私はわからなく・・・わたしは『はい?』と聞き返した。
それを聞いた彼は、急に顔を歪めて・・・ラグトに向き直る。
「優しき・・・人形よ、いや今はラグトなのでしょうか? 貴方は、ルラ様に説明もなしで契約を結ばせたのですか?」
「・・・・・・・君には、関係ない」
「関係ない・・・と? それは、わかっていっているのですか?」
言葉は、丁寧だが・・・何だか、怒って聞こえてしまう。
口を挟んではいけない気がして、私は話を聞くことにした。
「私たちは、契約を結ぶさい・・・は必ず、主の了承をとってから、契約を結ぶ約束ですよ」
「・・・・・・」
「貴方は、自分が何をしたか、わかっているのですか? 貴方は―――」
「それ以上、言うのであれば・・・僕は君を消す」
いつも以上に、低いラグトの声に恐ろしさを覚えた。
殺意がこもった声、私は瞬時にラグトの腕を掴んだ。
「・・・・あ」
ラグトは、呆けたように・・・声を出し、しょぼんとした感じに私に謝る。
私は、それに笑みを小さく残してから、美しき彼に向き直った。
「いまいち、状況が理解できないのだけど・・・お願いだから、ラグトを虐めないでくれないかな? 契約とか、よくわからないけど、ラグトは私の大切な人形なの」
「・・・・・・申し訳ありません、主」
「ううん、わかってくれればいいよ でも、その契約って何のこと?」
どうしても、聞けなかったことを私は聞いてみた。
「・・・私たち、人形は貴方様の母様、父様に契約をしていたのです」
「母と父・・・に?」
「ええ、私たちは元は貴方の母様と父様に作られたものです。 一度だけ、動いたこともありました。大変、お喜びになられたことを、私は覚えております。しかし―――」
「ちょ、ちょっと待って! 母と父は、ラグトと貴方を作ったなんてことはないわ! だって、私が昔、作ったものよ?」
確かに、矛盾している・・・私が作った人形は一度も母と父に作ってもらったことなんてない。
「落ち着いて下さい、ルラ様。 私たちは【魂を造られた】のです。貴方の母様と父様に」
「・・・え?」
もう、何を言っているのか・・・さっぱり、わからなくなってきた。
「続きを話します。私たちを、造られた母様と父様は大変な失敗をしてしまった。 憎しみの魂を造ってしまった」
ドクン
心臓が、高鳴りを始めた。
「・・・母さまと父様は、ご自分が殺されることを予期していたのです。」
聞きたくない・・・私は、耳を塞ぐ。
でも、自然に私の頭の中に声が聞こえてくる。
「その人形は、貴方様の作った人形・・・にのり移った。それが――「止めろ!!」
ラグトの声が、響いた。
ゆっくり、私たちはラグトを見る。
「・・・君に何が、わかる? 美しき人形、ルラは・・・そんな事実なんて知るために僕は動いたんじゃない。僕はルラの幸せを願って、母様と父様の契約を破ってまで、動いた!」
「・・・・・・」
「よく見てよ、美しき人形 今のルラの顔を、苦しそうだよ? 君の一番、嫌なものが流れ込んでいるはず。」
「ですが、真実を話さない限り・・・ルラ様は――」
「僕は、ルラにあの黒き人形を殺すと言った・・・でも、ルラは怒ったよ。僕らは【仲間】・・・そうじゃなかったの?美しき人形」
ラグトの言葉のせいか、静寂が地下を包んだ。
だが、美しき彼が私に近付いてくる。
「申し訳ありません・・・私は、貴方に真実を知って欲しかった。でも、それは私が嫌う苦しみにおちてしまうのを気が付かなかった」
私は、ただ首を横に振った。
美しき彼は、美しい笑顔を私に向けた。
「私も・・・名前を呼んでは頂けませんか? ルラ様」
その言葉に、私は記憶の奥底にある・・・昔の記憶から、一つの言葉を思い出した。
「ルティ・・・それが、私がつけた貴方の名前」
「・・・貴方の望みは?」
「誰でもいい、傍に・・・いて・・・ほしい」
その言葉を、言ったと同時に私は意識を手放した。
倒れるルラを、ルティはそっと抱き留める。
「・・・はぁ、私も契約を破ってしまいました」
「後悔している?・・・美しき人形」
「ふふ、するわけないじゃないですか・・・ルラ様の為なら、それに私の名はルティです」
ルティはルラを見ながら、幸せそうな顔だった。
「うん、そうだったね ルティ」
ラグトも、とてもいい笑顔だった
END
五話=七日目