ご注意

苦手・嫌な方は、お逃げを!



で、前回の続きです。




温かい思い・下



昨日のことから、一夜明けた・・・昼過ぎのこと。



斎藤は、今。千鶴の部屋の前にいた。

別に、羽織を返しに貰いにきた訳ではなく、もうすぐ巡察に行くということで、誘いにきたのだ。


「・・・千鶴、入っても構わないか?」

「え!あ・・・ちょ、ちょっとだけ待って下さい!!」


中から、ドタバタと少し音がする・・・斎藤は、すぐに何かを察したのか。

特に何も言わずに、じっと、その場に待つ。

さほど、しない内に物音は収まり・・・静かに戸が開き、笑顔の千鶴がいた。


「すみません、お待たせしてしまって・・・」

「いや、巡察に出るのだが・・・どうする?」

「!・・・はい、行きます。あの、あとどれくらいで出ますか?」

「そうだな、すぐにでも出たいと考えている」



斎藤の言葉に、千鶴は心底困った表情になってしまう。


「用があるのであれば、無理はしなくてもいいが・・・」

「いや!大丈夫です!・・・ただ、ほんのちょっとだけ待って頂けませんか?」

「・・・わかった、失礼したな」


少々、斎藤は千鶴の行動を気にしながらも、行く準備を始めるために一度、部屋に戻る。

斎藤がいなくなって、すぐ千鶴はしまっていた裁縫道具を取り出す。


「あと、少し・・・頑張らなきゃ!」



―――――  ―――――



それから、すこし経って・・・斎藤は玄関の方で千鶴を立って待っていた。


息を吐けば、白い息が出る。


「(やはり、冷え込んだな・・・)」


空をじっと見つめながら、冬の寒さを体に感じた。


「斎藤さん!」

「・・・・・・・」


斎藤を呼ぶ声が、聞こえ・・・斎藤はゆっくり声が聞こえたほうに振り返る。


「す、すみません・・・待ちましたか?」

「いや、さほど待っていない・・・それより、用があるのであれば本当に無理などは―――」

「あ、それなら大丈夫です!用は、もう済みましたから・・・あの、斎藤さん、これどうぞ」


いそいそと、千鶴は持ってきたものを・・・斎藤に渡した。

千鶴が渡してきたのは、羽織だった・・・しかし、なぜか二枚あり、片方は昨日斎藤が千鶴に渡したもので・・・片方はみたこともない黒い羽織だった。


「・・・これは?」

「えと、前から繕ってはみてたんです・・・昨日、斎藤さん寒さには、強いともいえないって言ったじゃないですか?だから、さっきやっていたんです」


斎藤は、先ほどの千鶴の部屋に入る前に、焦っていたのはこのことか・・・と納得した。

手にある羽織を見て、よく出来ていると思いながらも・・・ゆっくり、斎藤は羽織を千鶴に返す。


「すまないが・・・受け取れない」


だが、千鶴は斎藤から返された羽織を受け取ろうとはしない・・・そして、ポツリと呟いた。


「・・・それなら、捨てるしかないですね。寸法も斎藤さんに合わせちゃいましたし」


納得して、千鶴は今度こそ、羽織を受け取ろうとするが・・・


「――はぁ・・・着させてもらおう」


捨てるとは言わないだろうと思っていた・・・流石に、千鶴の努力を無駄にするのは失礼だとおもい、そのまま斎藤は、羽織を自分に被せた。


そして着心地は、良い・・・と思ってしまった。


「よかった、丁度・・・良いみたいですね。」


ふわりと、千鶴は斎藤をみて微笑む。

斎藤は、それに少し照れてしまう・・・誤魔化すために、言葉を続ける。


「・・・これを、作る為に今まで?」

「え、はい。羽織を貸して頂けたので、寸法を測るのも簡単でした。でも、巡察に出るなら寒いから・・・早く、作らなきゃと思って」

「・・・そうか、ありがとう」


必死に、説明をする千鶴を見て小さく斎藤は笑みを浮かべた。


「いえ!・・・そ、その無理に渡してしまってすみません!」

「いや、こちらが受け取ろうとしなかっただけだ・・・おまえが気にすることではない。それよりも、そろそろ巡察に行かねばならんな」


斎藤は、随分時間を使ってしまったことを、思い出す・・・しかし、着た羽織を見てまぁいいかと思ってしまう。


「はい!・・・くしゅ」

「・・・・・・大丈夫か?」


千鶴は元気よく、返事をしたが・・・そのあとすぐに、くしゃみをする。

よく見れば、千鶴はあまり温かそうな服装はしていない。


「あ、はい。大丈夫です・・・」


そうはいうが、あまり大丈夫そうには見えない。

そこで、自分がさっきまで千鶴に貸していた羽織は・・・まだ持ったままなことに気付く。


「着ろ・・・風邪をひかれても困る」


斎藤は、そのまま・・・千鶴に羽織を着させた。

少しの間、千鶴はアタフタとするが、すぐに冷静に戻る。


「・・・帰ったら返しま――」

「それはやろう、どうやら羽織を持っていないようだからな」


今度こそ、千鶴はそれは出来ない!と言おうとしたが斎藤はそれを聞かぬうちに、歩き始める。


「さ、斎藤さん!?」

「・・・・・・(温かいな・・・)」



ふっと、小さく笑う斎藤と・・・その後を必死に追って話を聞いて貰おうとする千鶴。


もちろん、千鶴の意義は通されずに終る。




END