「おーい、黒猫ちゃんやー・・・どこ、いったー?」



呼んでみるけど、返ってくるのは・・・ただの風の音だけ。




闇に浮かぶ月




黒猫を追ってきたのは、いいが・・・見失ってしまっては、探したくても探せないものだ。

いい加減、諦めて帰ろうか(てか、自分・・・特に関係もないのに何やってんだ)と思っていると・・・



にゃ~・・・・」



猫の鳴き声が、聞こえてきた・・・聞こえてきたのは、いいのだが・・・その声の方を見た瞬間に元来た道を戻り出す。



「いやいやいやいや・・・なぜ?なんで、路地の方から声するわけ?自分、行かないよ行かないからね。よし!何も聞こえなかった!さような――「にゃ~」・・・ぎゃーーーー!」



びっくり、するのも仕方ないだろう・・・いつの間にか、先ほどの黒猫が自分の足元にいて擦り寄っていたのだ。



「し、心臓に悪い・・・なに?きみ、怪我でもしてるの?」



触ろうとすると、その猫はまた・・・路地の方に歩き出した。

それに、びっくりしてすぐに猫を追う。



「まてぇぇ!そっち、行くなーー!怖いの嫌いなんだって!」



だが、猫はお構いなしに先に進んでいく・・・それに、従って仕方なく自分も先に進む。

さほど、経たずに・・・猫がある場所に止まった。その瞬間、チャンスと思い一気に猫を抱き上げる。



「よし!つかまえ・・・・・た?」



猫を捕まえたのは・・・いいが、そう捕まえたのはいいのだ・・・・・そう、その場所に人が血だらけになっていなければ、本当に良かったのだ。

反射的に、そのまま猫を落としてしまう・・・落ちた猫は、すぐにその血だらけの人間に擦り寄った。



「え、・・・し、死んでる?」



パニックってしまい、どうするべきか・・・携帯!?と思ったが、置いてきてしまっている。



「私のばかーー!?、なんでこんな時に限って!!あれか!?人工呼吸・・・いや、違うか!あれか、息を確かめたほうが・・・・えええと!」


「・・・にゃ~」



猫は、まるで落ち着けと言っているように、こちらを見ている。



「・・・・・・うん、落ち着いた方がいいね。状況整理するから、えとまず・・・猫が、私を起こしてそれに怒って、外に出て、君に血がついていて・・・怪我してると思えば、してない。てか、はっきり言うとこの人の血?で・・・・って、もしかして・・・・」


「にゃ~」


「頭、いいんだね・・・きみ。この人、助けて欲しくて・・・私を呼んだの?血までつけて」


「にゃ~?」



よくわかっていないようだが、勝手に助けてほしいということにしといた。

そうと決まれば、行動は速いものだった。

すぐに、近付き・・・息をしているか、確かる。



「(息は・・・・している、後は怪我の手当てといきたいけど・・・包帯とか家だし、男を担いでいくなんか到底、無理だ)」



どうしたもんかなーと、立ち上がり・・・周りを見る。

まぁ、路地だから・・・何もない訳だ。


運よく、路地を抜ければ、薬屋なんて・・・・・・ある訳



「にゃ~」


「・・・・・・」



うん、ある訳ないと思ってたんだが・・・あるものなんだね。

なんとも、偶然に・・・路地を抜けるとそこは薬屋だった。

てか、これ上手くいきすぎなんじゃない?


そんなことを、思いながらも・・・薬屋に向かう・・・もちろん、今は深夜だ。

開いてる訳がないのだが・・・・シャッターの前に行く。



「すいませ~ん!、ちょっと薬・・・てか包帯貰えますか~!」


声と共に、シャッターを思いっきり叩く。

中々、うるさい・・・少し経つと、どたどたとうるさい音がしてくる。



「うるせぇよ!今、何時だとおもってんだ!」



シャッターが、いきおいよく開いて・・・男の人が出てくる。



「すいませーん、今・・・何時かわかるもの、無くて」


「わかるだろ!真っ暗じゃん!」


「あー、そうですね~・・・てか、早く包帯売りやがれや」



いい加減、イライラしてきて横にあったものを、思いっきり叩く。



「・・・はい!ただいま!!」



すると、男の人は急に表情を変え、いつ持ってきたのかも、わからない・・・包帯を差し出した。



「ああ、どうも・・・おかね――「いえ!どうぞ、貰ってください!許してください!」



包帯を、渡すと・・・すぐに男の人はシャッターを閉めてしまった。



「うん、いい人だ」 「にゃ~」



笑顔で、血だらけの男の所に、戻る。

その後ろでは、粉々になったコンクリートが無残にも転がっていた。




―――――   ―――――



「はい、完了」



すぐに、男のもとに戻って包帯を巻く・・・ついでに、未だに起きない。

猫はというと・・・男の隣で一緒に寝ている。

羨ましいが・・・こんな所で、寝たくも無いので眠い目を閉じないように頑張る。



「・・・・・しかし、変な人」



変というより、不思議だ。

女物みたいな着物を着て、片目を包帯で隠している。

普通は、女物なんて男が着ないだろう・・・・まぁ、似合っているけど。



「・・・・・なんか、騒がしくなってきたような・・・・」



先ほどから、サイレンの音がなっている・・・・なんか、近くなっている気もする。

周りでも、見てくるかと思い・・・立ち上がるだが、前に進めない。

正しくは、進めないようにされている。



「・・・・・・わー、目の前に刀があるなー。とうとう、目がやられたかな?」



棒読みで、そんなことを言うが・・・内心、かなり焦っている。

だって、刀が首について・・・・とても、冷たいのだから、ゆっくり横を見る。

そして、どこかでみた・・・・着物が見えた。

てか、さっきまで見てた・・・柄だ。



「・・・・・おい」


「はいはい、何ですか?・・・恩知らずの人」



それは、先ほどまで・・・寝ていたはずの男だった。



「何が目的だ」


「目的?」


「見ず知らずの奴を助け、何を考えてやがる?」


「いや、特に何もないですけど・・・あ、あれですよ。そういうこと、聞くの貴方の隣にいた奴に聞いてくださいな」



すると、男は(多分)顔を動かして、自分のいた場所の隣をみる。

それを、見逃すはずもなく・・・男の手を掴み・・・距離を取る、上手くいったと思ったが・・・



「ッ!・・・女にも容赦ないですねー」



男は、すぐに・・・掴まれたのも気にせず、切りかかってきたのだ。

髪の毛が数本、宙を舞い・・・頬から、生暖かいものが流れてくる。



「クク・・・避けるたぁ、やるじゃねぇか」


「それは、お褒めの言葉・・・どうも」



わざとらしく、頭を下げる・・・男は、また自分のいた方に目を向ける。



「で・・・猫が、どうしたってんだぁ」


「その猫さんが、私をここまで・・・・導いてねぇ。仕方なく、手当てしてやったんですよ。貴方の猫じゃないんですか?」


「知らねぇな・・・」


「うわぁ、マジですか?・・・あれ?このまま、いったら、なんですか?私、殺されるんじゃ」


「ククク・・・どうだろうなぁ」



男は、一歩ずつこちらに近付いてくる。

嫌な汗が、伝ってきた・・・すぐに、逃げなければと頭では、思っているのだが・・・足が動こうとしない。

その間にも、男は近付いてくる・・・。



「じゃあ、近付かないでもらえません?・・・頼みますから・・・!」



トンッと、壁に背中が当たった。



「(なんで、壁になんかに当たってんの自分!?・・・あ、さっき距離取った時か)」



男は、うすら笑いを浮かべながら、刀を振り上げた。

小さく、私は笑って強く目を瞑る。



「フッーーー!!」



猫の威嚇の声。

痛みは無い、すっと目を開けてみれば・・・目の前で、刀が止まっていた。



「・・・クク、随分、懐かれてるじゃねぇか」


「!? ちょ、猫!! 何やってんの、今すぐ離れなさい!」



笑いながら、男は足元で噛み付いている猫を見る。

その状態に、かなり焦ってた・・・このままでは、猫が殺されてしまうかもしれない。



「ちょ! 猫は貴方を、助ける為にわざわざ私を呼んだんだからね!? その猫を殺したら、私が許さない!!」



少し、猫に恨みがあるが、殺されては猫が報われない・・・自分の目の前に刀があるから、精一杯睨みをきかせる。



「・・・いい目だ。 ―――おい、猫。 離しな」



片方の目が細くなったと、思えば、男は刀を鞘に納め、座り込み、猫に命令する。

猫は、男の言葉通り、離れて・・・どこか、申し訳無さそうに傷口を舐め始めた。

私も、刀が離れたことにほっとし、その場に腰を下ろした。



「たくっ、猫ちゃん・・・君は、何をしたいのさ。」



私を助けたと思えば、今度は男を心配。

呆れたが、少し嬉しかった。









END