地球の上空400kmほどのところを1秒間に8kmのスピードで周回し続けているサッカー場1つ分ぐらいの物体がある。天気が良ければ望遠レンズでその形をはっきりと捉えることもできるというその物体とは何かを皆様はご存知だろうか。


そう、国際宇宙ステーション(ISS)である。わが国の若田光一宇宙飛行士が今ここに滞在していて、3月から日本人初の船長に就任することになっている。ここには各国別に実験棟があり、日本は「きぼう」と名付けられた実験棟でさまざまな実験を行っている。例えば、次のような実験である。


(1).それまで、半導体はシリコン製のものが主流だったが、次世代の半導体としてシリコン・ゲルマニウム半導体の開発を進めていた。これはシリコンとゲルマニウムを均一に混ぜて作るものだが、地上では重力の影響で滞留という現象が起き、均一に混ぜて結晶を固めることはできなかった。


そこで、無重力の国際宇宙ステーションでシリコン・ゲルマニウム半導体の結晶を作ることにしたのである。その結果、望み通りの結晶を作ることに成功した。これで半導体ができれば、処理スピードが数倍速く、消費電力が1/7で済む次世代の半導体が完成するのである。


(2).筋ジストロフィーという病気がある。筋肉が次第に痩せ細って動けなくなり、命にもかかわるという難病であり、現在までのところ治療法は見つかっていない。ところが、ある日本人研究者が筋ジストロフィーの患者の尿にはプロスタグランジンDという物質が普通の人の数十倍も多く含まれていることに気付き、更に調査した結果、それがある特定のタンパク質から生み出されていることを発見した。彼はそのタンパク質の機能を殺せば、プロスタグランジンDの生成が止まって、筋ジストロフィーの症状を抑えられるのではないかと考え、そのタンパク質の結晶を詳細に分析してみたのだが、地球では重力の影響で結晶構造が歪んでしまい、一定の形を見出すことができなかった。


そこで、無重力の国際宇宙ステーションでタンパク質の結晶を作ることにしたのである。その結果、きれいなタンパク質の結晶ができ、その結晶にぴったりフィットした治療薬を作ることに成功した。早速動物実験をしたところ、筋肉の委縮を抑える効果が確かめられ、今人間用の治療薬の開発が急ピッチで進められているのである。


つまり、国際宇宙ステーションは、地球では重力の影響を受けるためにできず、宇宙でしかできない実験をするための壮大な実験施設なのである。