1月12日の日経新聞に思わず笑顔がこぼれた記事があった。「世界いまを刻む」という標題がついたフィリピンからの現場報告である。今日はこれについて語ってみたいと思う。


それによると、フィリピンで貧しい農家などが暮らす地域で、日本のNPO法人が日本人の美容師を現地の小学校などに派遣し、児童たちに日本の雑誌に出ているモデルたちの髪型を見せながら、「どういう髪型にしたい?」と聞いた上で、髪を彼らの希望通りに切ってあげて、子供たちを笑顔にさせているというのである。


昨年11月下旬に、マニラから北方100キロの所にあるザンバレス州の山間の公立小学校を7人の日本人美容師が訪問した際には、700人の児童にブラスバンドの演奏で迎えられたのだという。きっと美容師たちはサンタさんのように子供達に心から感謝されているのだろう。12歳のある少女は髪を切ってもらった後で「これまでは自分で切っていた。美容師にきれいにしてもらって、うれしい」とはにかんでいたそうだ。中には感謝の気持ちを表すために抱きついてくる子供もいるという。


私がこの活動が何より清廉だと思うのは、日本人美容師たちがこのイベントに参加する際に、現地までの旅費を航空機代も含めて自己負担していて、しかも子供達の散髪を無料で行っているからである。


すると、日本人美容師たちのメリットは一体何なのかということになるが、子供たちが髪を切ってもらった後で手鏡を見てうれしそうな笑顔を浮かべるのを見て美容師になって本当によかったと実感したり、その無垢な表情に接して、「日本の子供たちもこんなに笑えているだろうか」と考えさせられたり、美容師として仕事の原点を再確認させられることだというのである。


更にこの活動には続きがあり、日本のNPO法人は2013年5月にフィリピンに美容学校を開校し、美容師の養成に乗り出したという。フィリピンでは理美容に免許がないため、技術を身に付ければすぐに開業できるのである。というわけで、現在16人が日本のトップレベルの技術を学んでいるという。


この話が更に発展すれば、フィリピンで美容術を身に付けフィリピン人美容師たちが、将来日本にやって来て活躍するようになることも考えられ、少子高齢化の進むわが国の助けになるかもしれないが、それをあらかじめ計算するのではなく、「もしそうなったらいいよね!」ぐらいの期待にとどめておくべきだろう。なぜなら、世の中は往々にして「大欲は無欲なり」だからである。