安倍首相が4月28日からロシア、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、トルコを訪問するという。表面的にはロシアとは北方領土問題やロシアの極東シベリア開発への日本の協力問題を、サウジ、UAEとは、化石燃料の安定調達に向けた協力取り付けと価格引き下げ交渉を、サウジ、UAE、トルコとはシリア問題について話し合うものと見られているが、安倍首相が今回の外交に経団連を中心に過去最大規模の数十人の経営トップを引き連れていくことを考えれば、実利の獲得を目指していることは容易に想像がつく。


実は、トルコとサウジは今後原発の新設計画を持っていて、安倍首相はトップセールスで受注獲得を狙っているのである。トルコは2023年までに12基、サウジは2032年までに16基を計画していて、導入費用を1基あたり5,000億円と仮定すると総額14兆円の大商談になり得るのである。武器輸出ができないわが国にとってはほかに比肩するものがないぐらいの大型商品であり、力が入るのは当然だろう。


安倍首相はどこぞの元首相のように歴史に名を残したいなどと迂闊なことは仰らないが、三島由紀夫がボディビルダーに憧れたように、もしかするとホウレンソウの代わりにアイスクリームを食べて密かにポパイ・ザ・セーラーマンを目指しているのかもしれない。


何せ外国訪問のペースがこれまでの首相とは完全に次元を異にしているのである。就任直後のベトナム、タイ、インドネシアに続き、アメリカ、モンゴルと首相就任4か月で既に5か国も訪問しており、もし安倍首相が4年の任期を全うして、ひと月に1か国のペースで外国訪問を続けたら訪問国が48か国となってこれだけでも、5年5か月首相を務めた小泉元首相の46か国を抜いて戦後第1位となるのである。


勿論、外交では成果が重要なのは言うまでもないが、そもそも内政が安定しなければ外交はままならないことを考えれば、これだけでも十分に価値があり、もしそうなればプロ野球の2,000本安打か200勝にも匹敵する快挙であるといってよいだろう。


安倍首相の外交を透徹する基本理念は、「自由、民主主義、基本的人権、法の支配といった基本的価値」を共有する国々と連携を深めていこうというものであるが、常に相手への気配り、周囲への目配り、心配りを忘れない上品な振る舞いと、人の心を揺さぶる演説、ぶれない政治信念、入念に練り上げた作戦と果敢な実行力で難局を切り開こうとしている姿は国民から見ても実に頼もしい限りである。