コンピューター教育:パソコンを使わず、本質を教える NZの研究者らが教材制作

 パソコンを使わずに教えるパソコンの教本をニュージーランド・カンタベリー大学准教授のティム・ベルさんらが本にまとめ、このほど日本語版「コンピュータを使わない情報教育」(イーテキスト研究所、1575円、原題 Computer Science Unplugged)が刊行された。パソコン教育は機器の操作に偏りがちという批判に応えたといい「操作が苦手な子供たちにも分かる」がうたい文句だ。

 本では、2進数や並べ替え、テキスト圧縮、エラー検出など、コンピューターの基礎的な仕組みを学ぶ12の方法が紹介されている。ベル准教授が、10年以上前、当時小学生だった息子に、コンピューターの仕組みを教えられないかと考えたことがきっかけ。「それ、さっきも言った!」(テキスト圧縮)「時間内に仕事を終えろ」(並び替えネットワーク)など、タイトルも工夫をこらした。

 「時間内に仕事を終えろ」(並び替えネットワーク)は、コンピューターがデータをどのように並べ替えるか、データの代わりに子供が自分で動いて体感する手法。監訳者の兼宗進・一ツ橋大准教授は「小学生でも分かる手法だが、高校生や大学生に教えるにも有効ではないか」と期待する。

 ベル准教授が最初に思いついたのは、通信中に情報が破損したかどうかを判断する仕組みの教え方で、本書では「カード交換の手品」(エラー検出とエラー訂正)と名づけられている。白黒のカード36枚を縦横6枚ずつ正方形に並べ、中から1枚、子供に好きなカードを裏返させる。どのカードを裏返したか、教員が当てるゲーム性のある手法。

 カードの並べ方が鍵で、はじめに縦横5枚ずつ、計25枚は白黒が入り交じるように、子供に自由に並べさせる。その後、「黒」がそれぞれ偶数になるように、教員がもう1列縦横にカードを足す。どこを裏返しても、その行は黒いカードが奇数枚になって見分けられる仕掛けだ。

 実際には、通信に使う2進数のデータに「1」が偶数個含まれている場合はデータの端に「0」、奇数個の場合は「1」を付けて送り、データ内の「0」「1」の数と、端の値が合わなければ、データが破損している--というように使う。本の注文に使うISBNの数字やバーコードも、最後の一けたはチェックのための数字になっている。

 三重県松坂市立飯南中学校の井戸坂幸男教諭は、兼宗准教授と協力し、翻訳書が完成する前の今年1月から、コンピューターを使わない情報教育を授業に取り入れている。これまで「画像送信の仕組み」「2進数」「圧縮」「エラー検出」などを取り上げた。グループゲームなので、仲間同士で試行錯誤したり、教えあったりできる。普段PCが苦手で、あまり授業に参加してこない生徒が乗ってくるという。

 井戸坂教諭は「この教材は、ゲームの中に本質が含まれている。言葉の意味だけを覚えるより、本質を理解しているほうが大事だ。技術の授業ではのこぎりの刃の仕組みを教えるが、ソフトウェアの仕組みは教えない。今の情報教育に欠けている部分ではないか」と指摘している。【岡礼子】


毎日新聞から

 そういう引き込み方あるんですねぇ。