日本映画、新人監督の波 TV出身、たたき上げ…
今、日本の映画界は新人監督が目白押しだ。自主製作の延長上にデビューを果たす若者、たたき上げの助監督、名うてのテレビディレクター。なぜ今、新人監督なのか。そして、彼らが目指すものとは……。
「監督第1作」「初の商業映画」。映画の宣伝文句は「初物」を強調する。2~3作目までを含め「新人作品」とみなされることが多い。9~12月の公開作品だけでも20本以上。彼らの出自からは、いくつかのパターンが見えてくる。
まず、公募の映画祭から出てくるタイプ。「ウォーターボーイズ」の矢口史靖らが輩出した「ぴあフィルムフェスティバル」(PFF)の出身者が代表的だ。
04年準グランプリの廣末哲万が撮った「14歳」が劇場公開予定のほか、今年は荻上直子の「かもめ食堂」、公開中の李相日(リ・サンイル)の「フラガール」などPFF勢のヒットが続く。
テレビ界出身の監督デビューも目立つ。ほとんどがテレビでは相当な経験を持つディレクターたちだ。
今年のデビューだけでも西谷弘(「県庁の星」)、宮本理江子(「チェケラッチョ!!」)、林徹(「大奥」)ら。鶴橋康夫の「愛の流刑地」も来年1月公開される。テレビ局そのものが積極的に映画事業に進出し、ドラマを盛んに映画化していることも背景にある。
フジテレビの亀山千広・映画事業局長は「私たちは監督を抱えた制作集団を目指している。経験豊富な者が身近にいるなら、彼らを使うのは当然。気心が知れているわけだし」と話す。
予算や上映時間の制約の中で手堅くこなすといった利点を指摘する声もある。
「東京ラブストーリー」など人気ドラマの演出を手がけた永山耕三も最近、「東京フレンズ」「バックダンサーズ!」の2本で映画監督デビューを果たした。
もちろん、助監督からのたたき上げ組もいる。
約15年で映画数十本、テレビ100本以上で助監督を務め、ドキュメンタリーやCMの現場も知る45歳の大崎章は、21日公開の「キャッチボール屋」で遅咲きデビュー。「覚悟は若者に負けない。明るい映画にメッセージを込め、人と社会を描きたい。それがプロ」
7日公開の「9/10」の東條政利は、柳町光男監督「カミュなんて知らない」などの助監督を務めた。
自主製作やテレビで力をつけた「独力派」では、「パビリオン山椒魚(さんしょううお)」が公開中の冨永昌敬や、在日コリアンの呉美保(オ・ミポ)がいる。29歳の呉の初長編「酒井家のしあわせ」は、夫の不可解な離婚宣言が静かな生活を揺さぶる物語。ベテランスタッフに「主張や作家性がない」と批判され「『ミュンヘン』を見たか」と言われた。でも「心揺さぶる映画を私の感性で作る」。
OL出身監督として話題を呼ぶ安田真奈の初の劇場公開作「幸福(しあわせ)のスイッチ」も今月公開。このほか、7日公開「いちばんきれいな水」のウスイヒロシら、音楽ビデオ出身者もいる。
◇資金集めハードル低く 「社会性が希薄」指摘も
なぜ、新人監督がこれほど多く登場するのか。
岩井俊二監督らの作品を製作したギャガ・コミュニケーションズの河井信哉プロデューサーは映画作りのハードルが低くなった、と指摘。DVDやビデオ、ネットなど収入の口が増えて資金が集まりやすくなったことをあげ、「5000万~8000万円の映画はひょいとできる」。話題を呼べば、シネコンで展開を拡大できる。
新人発掘プロジェクト「ガリンペイロ」を04年まで行った興行会社東京テアトルの西ケ谷寿一さんは、批評の変化が「新人」に活躍の場を与えているという。ネット上で誰でも「批評」できる今、過激で直接的な言説が若い客を動かすようになり、奇抜な作品がウケやすくなったとみる。
また、「80年代に活躍した世代の調子がいま一つ」「プロデューサーの若返りも始まり、新しい感性の企画が出てきた」「市場調査が得意なテレビ局が乗りだし成果につなげ日本映画全体の訴求力を強めた」などの理由をあげる人もいる。
「フラガール」が4作目の李監督も「フジテレビ作品や宮崎駿作品のヒットが我々が出てくる足がかりを作ってくれた」と話す。
若手の作品について、西ケ谷さんは、社会性やメッセージ性が薄い、と指摘。平板な社会の中でマンガ的な設定にドラマを求める作品が多い、とみる。「キネマ旬報」元編集長の植草信和さんも、家族や友人など身の回りを内向きに描いた作品が目立つ、と語る。
「単なる私小説や自分探しにとどまるか、主張を持ち得るかは紙一重。西川美和監督の長編2作目『ゆれる』が高く評価されるのは、家族や兄弟の描き方に普遍性があるからだ」
asahi.comから
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