プレリュードは優しい音色で2 | アマチュア作家狛江大和の恋愛論

プレリュードは優しい音色で2

ーーあの時、アタシたちはハンズでクリスマスグッズを物色していた
アタシとアイツの家では毎年合同でクリスマスパーティーを開くから、その準備のための買い出しにアイツを引っ張り出したのだ

「ねえ、これだったらどっちが良いかな」

アタシが両手に持った2つのクリスマスオーナメントをぶらぶらさせると、アイツはたいした興味もなさそうに、2つとも買えば良いんじゃないのかな、なんて無責任な事を言った

「そんな予算ないの知ってるでしょ。他にも買わなきゃならないものがいっぱいあるんだから」
「え、まだ買うものあるの?」
「あるからアンタを連れて来たんじゃない」

アイツは口をへの字に曲げ、片手にぶら下げた紙袋を揺らしてみせた

「連れて来たのは僕の方だろう。僕の車で来たんだから」
「運転してきたのはアタシ。アンタが勝手に乗り込んで来たんじゃない」
「乗り込んできたって、勝手に僕の車のキーを持ち出すからだろう。誰だって心配になるよーー」

廃車にされないかどうか…アイツは小声でそう付け加えたが、アタシのアンテナは一言一句聞き漏らさなかった

「何ですって」

一歩踏み出すと、空気のクッションに押されたかのように、アイツは半歩だけ後退した
顔をひきつらせまま

「いや、だって運転ヘタだから。ほら、この前だって危うく崖からダイビングするところだったじゃないか。まあ、僕としてはあの時、スタントマンの体験をしておいても良かったんだけどね。でも廃車は困るなぁ、君だって得意のカースタントが出来なくなるよ」
「アタシはスタントマンじゃないわよ!」

アタシはアイツの左足を、買ったばかりのパンプスで踏みつけてから、オーナメントを1つだけ持ってレジへと向かった

確かにアタシは少々運転が不得手かもしれない
自慢のニュービートルだって、三日前に軽く電柱に接触してーーそう、あくまでも軽くーー今は修理中だ
だけど、いくらなんでもスタントマンはひどい
馬鹿にするな!

と、ちょっとばかり憤慨した真似をしていたらアイツ、足を引きずりながらも必死の形相で追いかけてきた

なんだ、謝りにきたのか
まあ、仕方ないな
今回は許してやらないでもない
でもその代わり、アンリ・シャルパンテのシュークリームをご馳走してもらうわよ
そんな皮算用をしていると、アイツはアタシの前に回り込んで、

「いや悪かった。言い間違えたんだ。一応女なんだから、スタントマンじゃなくてスタントウーマンて言うべきだった」

アタシの華麗なローキックが炸裂したのは言うまでもない

なんだスタントウーマンて!
しかも言うに事欠いて、一応女とは一体どういう了見!
江戸時代なら打ち首よ、金さんの桜吹雪が黙っちゃいないわよ

腹の虫がおさまらないままレジで会計を済ませ、さて次の売り場に行こうかと辺りを見回すと、なんとアイツの姿が綺麗サッパリ消えていた
ちょっとアイツ…一体どこに行ったのよ?


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