湯治の楽しみの一つに食事もある。ほとんどのお宿は賄が付くのでありがたく賄を頂く。お客様に出している料理と同じものを出してくれたり、地元の美味しいものを食べさせてくれるお宿もある。お客様に出す料理を賄として提供してくれるお宿は「食べたことないとお客様に聞かれてもわからないでしょう」と勉強も兼ねているからありがたい。朝の賄がお客様に交じって朝食バイキングを自由に食べて良いお宿もあった。一方で海苔とみそ汁と白米だけの賄なんてお宿もあるのでピンキリだ。従業員が多いと社員食堂が充実していて、自由におかずを取って食べるスタイルや一人ずつおかずを用意してくれる食堂スタイルもあった。１日２食、または３食で、休日も自由に食べることが出来るお宿もあれば休日は食事の支給が無いお宿もある。スーパーや飲食店のある地域だと賄ではなくて食事手当てが付いて自分で食事はどうにかする場合もある。滞在期間が長くなるほど食生活は大切になるので温泉よりも食事面を重視する人も居たし、従業員の食事を大切にしてくれる職場は従業員のことを大事にしてくれる職場だと感じる。
湯治場で出会った人の中には、「食事重視」と言い切る人も居た。全国各地で働いて地元のものを食べるのが好きで、賄が質素な職場では延長しないと断言していたほどその人は食事を重視していた。食べ物は人の体を作る重要なエネルギーだから食事を大切にする気持ちはよくわかる。お宿の事情としても賄を作るほど調理場に余力が無く、白米は自由に食べて良いがおかずは毎日仕出し弁当のおかずが支給されるお宿も何件か体験した。仕出しのおかずもピンキリなので比較的お金がかかっていると思われるおかずを用意してくれるお宿だと毎日楽しみだったし、あまりお金がかかっていないと思われるお宿のおかずだと冷凍食品系のものが多かったりする。たまにお弁当屋さんがお休みだとレトルトカレーが支給されたことも何度かあった。お弁当支給の職場で毎日お弁当生活が続くと長く勤めている人たちは飽きていてお弁当を食べない人も居た。私の場合は数日だけ滞在したのでお弁当で乗り越えたが、さすがに毎日お弁当生活だと他のものが食べたくなるだろうと感じた。その職場では仕事終わりにお弁当がいくつも残っていた。
美味しい食事が用意されるお宿は大体が調理場の人が作ってくれる食事だ。毎日何を食べても美味しい湯治場だと食事の時間が楽しみでテンションも上がる。「うちは従業員の食事は大事にしています。食事で従業員のモチベーションを下げたくない」と従業員のことを考えてくれているありがたいお宿もある。
レストランのスタッフだと下膳の際にお客様の手付かずのお料理を食べる人も居る。宴会会場の片付けで片っ端から残り物を手掴みで食べ漁ってる女性社員も居てビックリしたこともある。「好きなの食べな～」と言われてもあまり人様の残したお料理には興味が無かったので手を付けなかった。バイキング会場では最後に残ったお料理を全て廃棄するので多少手を付けることはあったが、基本的に後片付けの仕事があるのでゆっくりと食べる余裕はない。あくまで仕事が優先なのと、賄でお腹を満たしていたのでそれほど食べたいとも思わなかった。ただし、バイキングのお料理が美味しいお宿だとついつい食べ過ぎてしまうこともある。（海の湯治場）
１日３食、休日も含めて食事は全て提供されるお宿だと滞在中お金を使うことがほぼない。１日２食の場合は多少お腹が空くので自分で何か買って補うので食費がかかる。近場にスーパーや飲食店のある地域だとついつい財布のひもが緩んでしまい見慣れぬものを食べたくなってしまう。賄が無く、食事手当てが付くお宿の場合は１日１０００円～１２００円程度の手当てが付いた。スーパーやコンビニを使えばその程度で何とかやりくりは出来る。滞在中お金を使いたくない人ほど賄の条件を重視する傾向にあるだろう。
それぞれの湯治場にはそれぞれの食事事情がある。美味しい賄付きだとそれをアピールした求人が目に付くし、事前にお弁当でおかず支給などと説明のあるお宿もある。寮の個室内にミニキッチンが付いているとか、お湯ポットや電子レンジが用意されているところもあるので多少の調理をしたい人にはそのような条件も重要だろう。住み込みのお仕事ならではの食事事情があるので、私の場合は数日間は自力でしのげる程度の食料は持参する。魚肉ソーセージやクラッカー、柿の種、チョコレートなど登山やトレッキングをする感覚で非常食を持参する。現場に行ってみて結果的に３食の賄だけで十分なところもあれば、提供される賄だけでは補えない場合もあるのでその時々で調整する。
普段食べなれない各地の美味しい食事を味わえた時には幸福指数がかなりアップする。すると、自然に仕事も頑張ろうと思えるし、充実した湯治生活も送ることが出来るので、温泉と同様に食事も毎日の湯治生活で欠かせぬ重要なことだろう。美味しい賄を頂けるお宿だとついつい食欲旺盛になってしまいがちなので、その辺はきちんと自己管理をして湯治中には太らないようにも気を付ける。何より、普段自炊をしている人にとっては食事を用意されているありがたさが身に染みて嬉しくなる。
