10月13日(日)、嵐の爪痕が残る東京で「組曲虐殺」拝見しました。
台風対策で、土曜日の高速バスがキャンセルされてしまったので、金曜日の午後に新幹線移動。
公演当日も、ほとんどの電車が朝から運休していたので、歩いて銀河劇場を目指しました。
幸い、2時間ぐらい歩いた所で電車が動き出したので、開演には余裕で間に合いました。

肝心の公演内容は、「虐殺」というタイトルから抱くイメージとは異なり、6人のキャストが繰り広げるワイワイとしたチーム感が、楽しいお芝居でした。
主人公の井上多喜二の死に際は、確かに惨たらしいものですが、本作では周りの人々に如何に愛され、自分の信念を如何に貫いたが語られていました。
最も印象的だったのは、特高の描き方。
虐殺されたヒーローを主人公に据えた物語では、追う側は悪者として描かれがち。
ですが、本作では公安の2人もどこかお茶目で、多喜二に親近感を懐き、影響を受ける存在でした。
特に、土屋佑壱さん演じる山本は、コメディリリーフとして大活躍。
多喜二の家に特高が下宿するシーンは、本当に楽しくて好きです。
その全力な演技からは、山本の様々な感情が伝わり、終盤に多喜二の死に様を報告するシーンには、無に迫るものがありました。
刑事役の印象が強い山本龍二さんも、強面ではありますが、応援団に扮して壁の上から顔出すシーンは、めっちゃお茶目でした。

井上芳雄さんが演じた多喜二は、エネルギッシュで快活。
こういう人は周りから愛されるだろうなって、多喜二を体現していました。
独房のシーンも印象的でした。
自分の顔を手鏡で確認しながら、幻影の女性に愛を歌うシーンはそら恐ろしかったです。

そして何より、我らが上白石萌音。
もねねん演じる瀧子は、どの時代もとっても愛らしく描かれています。
着物やメイド姿などへの衣装替えも多く、終始可愛いもねねんを堪能できました。
一番の見所は、潜伏する多喜二のアジトを訪ねるシーン。
愛しているTさんに、本当は付いていきたい瀧子。
でも、自分の稼ぎに依存する家族も見放せない。
家族ごとTさんと潜伏しては、特高に見つかりやすいだけなので、Fさんに託す。
Fさんが羨ましいと吐いた時の声の音圧にドキッとし、想いを吐露する瀧ちゃんに、自分の失恋がかさなりました。
とても切ないシーンだけど、最も好きな場面でした。
歌うシーンも多く、赤坂Blitzぶりに、もねねんの生歌を堪能しました。

多喜二の姉を演じる高畑淳子さんも、いつもながら圧巻でした。
TVドラマでは、主役を喰う存在感を示す女優さんですが、本作では常に弟を想う姉としてハマってました。
もねねんとのコンビ感も心地よかったです。
初めての生高畑敦子だったので、それも今回の観劇の収穫の一つです。

ふじ子を演じた神野三鈴さん
ドラマなどでしばしばお見かけしますが、じっくりと演技に注目したのは、本作が初めて。
多喜二を献身的に支える役どころですが、変装したり、靴底を演じたるコミカルなシーンが楽しくて、芸達者な方でした。
伴奏を担当した小曽根真さんの奥さんだとは、プロフィールを拝見するまで知りませんでした。
小曽根さんが演技に合わせてピアノを引き続けるという演出は斬新で、とても贅沢な時間でした。

終演後、多喜二の人生を振り返っみました。
あんなに苦しい思いをしながら、なぜあんな真摯に政治的運動に没頭できたんだろう。
でもその真摯さが、人の心を動かし、本作の山本のように、あとに続く人を生むのかもしれないと、感慨にふけりました。