月日が経つのは本当に早いものだ。そう思ったのは季節の移ろいを感じたからでも、自分の成長に気がついたからでもない。恋人がひとつ、年をとったからだ。
恋人、アレルヤ・ハプティズムが二十歳になった。成人になったのだ。
以前に、偶然聞いた誕生日を覚えていた。その日に合わせてプレゼントを用意しようと地上に降り、ワインと花束を買った。彼と酒を交わし、情熱的な夜を過ごすはずだった。はずだったのに。
彼が部屋に帰ってきたのは、日をまたいで、二時頃だった。つまり、彼の誕生日は終わってしまっている。
「あれ、ロックオン?」
部屋の前に座り込んでいる俺を見て、彼が驚いた様子を見せる。
「……よう」
無意識に、声に不機嫌さが滲んでしまった。約束もなく勝手に部屋に来たのは俺で、彼は悪くないのに。
でも普通、誕生日は恋人と過ごしたいと思わないだろうか。誕生日くらい、甘えてほしいものだ。
「ロックオン、もしかして僕のこと待ってた?」
もしかしても何も、それしかないだろう。こんなところで座り込んで、馬鹿みたいではないか。
「あの、ロックオン?」
「いや、いい。俺が勝手に待ってたんだよ」
笑顔を作り、彼に手に持っていたものを渡す。
「ほら、これ。誕生日おめでとう。一日遅いけどな」
アレルヤはきょとんとした表情で動かない。そんな彼を残し、俺は部屋に戻ろうとした。
しかし、腕を掴まれる。振り返ると、アレルヤは泣き出しそうな顔をしていた。
「ロックオン……」
彼の目に、みるみるうちに涙が溢れてくる。ぽろぽろと大粒の涙をこぼしながら、アレルヤは俺に抱きついた。
「アレルヤ、どうしたんだよ」
「ロックオン、好き。好きです、好き……」
泣きじゃくりながら、彼は繰り返す。あまりに急なできごとだったので、俺は身動きを取れないままでいた。
「アレルヤ……?」
彼は体を起こし、目をこする。そして、少し恥ずかしそうに笑った。
「ロックオンが、僕の誕生日を覚えててくれたなんて思わなくて」
そう言った彼が可愛くて、気づけば彼の唇を奪っていた。アレルヤはされるがまま、じっとしている。今まで交わしてきた数々の口づけとは違い、熱く激しいものだ。
「ん……、ロックオン……」
「ふ……、可愛いなおまえさん」
アレルヤは頬を赤くし、とろんとした目をしている。
「もう大人になったんだ、食ってもいいんだろ?」
「く、食うって……」
彼の顔が、ますます赤くなっていく。こういうところが、愛おしい。
「なあ、いいだろう?」
さらり、と彼の前髪をとく。彼は困った顔で、俺を見上げた。
「……僕、初めてなんです。今まで、こんな風に誰かのことを好きになったことなんて、なかったから」
「ああ、分かってる」
できるだけ優しく微笑み、彼の手を握る。アレルヤは安心したように笑い、俺の手を握り返した。
◆ ◆ ◆
月日が経つのは本当に早いものだ。あれから、もう何十年経っただろう。
俺は戦時中に片目が見えなくなり、それからずっと故郷で暮らしている。近頃は足腰が弱って、歩くことも一苦労。寝て過ごすだけの毎日だ。
ベッドの中でときどき、彼のことを思い出す。 優しくて可愛かった、年下の恋人。彼は戦場で亡くなった。
自分の年は忘れてしまっても、彼の誕生日だけは、いつまでも覚えている。自分でも呆れてしまうくらい、好きだったのだ。
(おめでとう、アレルヤ)
胸の内でつぶやけば、彼の笑った顔が脳裏に浮かぶ。眉が下がった、困ったような笑顔。
それは胸に、記憶に。
刻みつけられたように、鮮明に。
生きている限り、きっと何度も思い出すだろう。