部屋で一人、本を読んでいる。内容はミステリィ、皮の表紙が上等だ。古い紙の匂いが好ましかった。
 机に置いているコーヒーカップを、ときどき口に運ぶ。時間を気にすることはない。ただ物語に集中できる、心休まるひとときだ。
 ここのところ、大きい戦争が起こっていない。期間的なことだろうが、待機する時間が以前よりも格段に増えた。
 その時間をどう使うかは、個人の自由である。俺はもっぱら、部屋に閉じこもっていた。もともと一人でいる方が好きなのだ。昔は積極的に人と関わっていたけれど、最近はあまり気乗りしない。
 そう思ったそばから、コンコン、とドアがノックされる。客がくることは別段珍しいことではない。今までいい顔をしてきたツケだ、と考えることにする。
 はい、と返事して扉を開けると、そこにはクルーの一員、フェルトが立っていた。彼女は、橙色の球体を抱えている。

「夜分にごめんなさい」
 彼女はそう言って、不器用に頭を下げる。

「ハロが、あなたを探していたの」
 フェルトは一度俺を見て、恥ずかしそうに目線を外した。そういえば、この子は俺が好きなのだ。
 しかし、それは本当だろうか? アレルヤのことがあってから、俺は自信をなくしていた。人気者だと思っていたのは、気のせいだったかもしれない。よく考えると、そう思い込んでいた自分は、とても恥ずかしいのではないか。

「ロックオン?」
 フェルトが、上目遣いで俺を見る。

「ああ、いや……。わざわざ悪いな。ほら、ハロ、早く部屋に入れ」
 彼女の目を見て、少し微笑む。フェルトはまた、目をそらした。
 深く考えないことにする。ハロは彼女の手をすり抜け、俺の前で跳ねた。

「ロックオン、ジュウデン、ロックオン、ジュウデン」
 ハロはそう言って、動かなくなった。俺の足元に転がっている。

「変なやつ」

「あの、じゃあ」
 彼女はそう言い、踵を返す。
「ありがとうな、フェルト」
 背中に、投げかける。彼女は振り向き、小さく頷いた。

 ◆ ◆ ◆

 本の続きを読んでから、ベッドに横になった。かけていた眼鏡を、サイドテーブルに置く。瞳を閉じると、すぐに睡魔が襲ってきた。活字ばかり見ていたからだろう、目が疲れているみたいだ。
 静かだ。充電装置にセットしたハロは、まだ喋る元気がないらしい。部屋には、沈黙が流れる。
 気づけば、先ほどのフェルトの様子を思い出していた。彼女はあまり人付き合いが得意ではない。だから、少しどぎまぎしているだけだ。それを、長い間勘違いしていた気がする。クリスが俺の容姿を褒めてくれたのも、ただの社交辞令だったのだろう。アレルヤだって、本当は俺が苦手なだけだ。
 いい気になっていた自分が惨めだ。布団を胸の上まで引っ張り、枕に沈み込む。
 眠ることで、思考を断ち切ることにした。