彼の歳の頃、俺はこんなにしっかりしていただろうか。彼はいつ見ても服装も髪型もピシッとしていて隙がない。体は鍛えられピンと張った背筋が美しく、隣に並んでいても少しも年齢の差を感じさせない。
 一緒に戦ってみても彼の印象は変わらなかった。周りをよく見ていて、仲間へのフォローを忘れない。戦闘能力という点でも劣らず、毎日こつこつと訓練をし作戦会議にも顔を出しているようだった。
 体格も精神面も、彼は明らかに他のマイスター達とは違っていた。顔立ちはまだ幼かったから年下だろうとは思っていたが、まさか俺と五つも離れているとは思わなかった。
 俺が十九の頃も、こんなだっただろうか。きっと違っていたはずだ。
 彼が告白してきた時、俺で良いのだろうかと随分悩んだ。彼が好きだったけれど、俺は歳のわりにいい加減で頼りない。
 つり合わないだろう。いつかそう言った俺を、彼は笑った。
「そんなことないですよ。ロックオンは僕の憧れなんです」
 優しく、そう言って。

 ◆ ◆ ◆

  彼を子供だと思えるのはほんの少しの間、体を重ねている時だけだ。若いからだろう、彼は何度もしつこく繋がることをねだった。そしてそれが終わると疲れ果て、眠ってしまうのだ。
(可愛い)
 こうやって眠っていると、年相応に見える。
 最近アレルヤと一緒にいて、俺の気持ちは大きく揺れていた。彼を好きで離したくない気持ちと、俺みたいなやつに付き合わせてしまっている罪悪感がせめぎ合う。
「こんなに好きなのにな……」
 彼の髪をとくと、愛おしさが増した。
「……まだそんなこと言ってるんですか?」
 彼が目を開け、俺を見る。眠たそうに目をこすりながら。
「悪い、起こしたか?」
「くすぐったくて」
 彼は嬉しそうに笑った。こういう顔も、子供っぽい。
「僕はロックオンが大人だから、つり合おうとして背伸びしてるのに」
 彼の声が心地いい。思わず甘えてしまいたくなる。
「最初にロックオンを見た時から好きだったんだ。格好良くてでも意外と可愛いところもあって、気付けば大好きになってた」
 彼は体を起こし、ベッドに座っている俺に抱きつく。
「ロックオンがロックオンじゃなくなったら、僕は悲しいよ」
「こんな出来の悪いやつでもか?」
「だから、そんなことないよ。ロックオンは僕達が最初に会った時のこと覚えてる?」
「ああ、もちろん」
「あの時ね、すごく緊張していたんだ。人がたくさんいる組織って苦手だったから」
 彼の過去は知らないが、昔何かがあったのだ。自嘲するみたいに、彼は言った。
「ロックオンが明るく握手を求めてくれて、安心したんだ。僕がこんなにここが好きになったのはロックオンのおかげなんだよ」
 その言葉は嘘ではないだろう。なぜなら、彼は嘘をつかないのだから。
「……ありがとうな、アレルヤ」
 俺は彼を抱きしめ返す。彼はずっと、胸に顔を埋めていた。

 ◇ ◇ ◇

 彼はやはりしっかりしている。大人を黙らせるなんて、十九の俺には出来なかっただろう。というか、
(黙ってしまった俺も俺か)
 ふ、と笑うと彼が顔を上げた。
「どうしたの?」
「いや……」
 彼がもし俺を追い越してしまったら、離れていくのだろうか。俺はきっと彼に嫌われたら死んでしまう。散々彼に悪いと思っておきながら結局別れなかったのは、俺が離れたくなかったから。彼が好きで、どうしても別れを告げられなかったからだ。
 だから、もう少しだけ大人になろう。そうすれば俺は彼のそばにいられる。
「お前さんに呆れられないように頑張るよ」
「そんなの大丈夫だよ」
「分からねえだろ、この先何年一緒にいられるかなんて」
 そう言いながら、俺は思いついてしまった。これを言ったら、彼はどんな反応をするだろうか。わくわくする。
「俺はお前とずっと一緒にいたいんだ」
「えっ?」
「俺と結婚してくれ」
「ええっ!?」
 期待していた反応だ。彼の頬がだんだん熱を持っていく。
「本当に……?」
 彼がおそるおそる聞いてくる。
「本当」
 今俺はとびっきり甘い顔をしているだろう。大人とは、思えないくらい。
 彼は少し顔を伏せ、恥ずかしそうにはにかんだ。その頬から、耳まで真っ赤になっている。
「僕で良かったらもらって下さい」
 不器用に、彼はそう言った。
 それは背伸びも大人ぶることもしていない、確かに十九歳のままの素顔だった。