僕はずっと、ロックオンは香水をつけているものだと思っていた。彼とすれ違ったり横を通ったりする時、それに身体を重ねる時、いつもいい匂いがするからだ。
 何もつけていないと言われた時、とても驚いた。じゃああの、僕が感じた匂いは一体何だったのだろう。

 ◆ ◆ ◆

(ふー)
 ヘルメットを外し、タオルで汗を拭う。廊下を歩きながら、パイロットスーツの前をはだけさせた。
 それにしても、今日のミッションは大変だった。敵の数が、いつにも増して多かったのだ。こちらにパイロットが、四人しかないというのが痛い。仕方のないことだが、もう少し余裕というものが欲しいものだ。
(あ、)
 ロックオンだ。廊下の先を彼が歩いている。
「ロックオン」
 声をかけると、彼がくるりと振り向いた。
「おお、お疲れさん」
「お疲れさま」
 元気な彼は相変わらずだ。いつだって明るくて飄々としている彼は、格好いい。
「今日は大変だったな」
「そうですね」
「もっと人、増やせねえかな……」
 それは僕も考えた。でもきっと……。
「無理だろうね」
 僕達が行なっているのは反政府運動だ。それに、命をかけた戦いをしている。入りたいと言ってくる人は、まずいないだろう。
「じゃあさ、ミス・スメラギ達にも出てもらうとかさ」
「スメラギさんがガンダムに?」
 想像して、笑ってしまった。とても、似合いそうになかったからだ。
「ねえな」
 笑いを含めながら、彼は言った。
「まあ、俺達がスキルを上げるしかねえな。とりあえず信頼関係を築くために、酒でも呑むか!」
「またですか? あれだけ呑んでいれば、もう信頼度はかなり高いと思いますけど」
 それに彼の部屋に行くと、ろくなことがない。必ずと言っていい程、身体を重ねてしまうのだ。
「いいからいいから。奢ってやるから、な! 行こうぜ?」
 ふわり、と肩を抱かれる。彼の体から、いい匂いがした。汗のせいか、いつもより匂いが強い。
(もしかしてこれって)
「フェロモン……?」
「お、焼き肉か? いいな、久々に……」
「それはホルモンでしょう」
 的確なツッコミを入れながら、僕は思った。まったく、しょうがない人だ。
「……行こうか、焼き肉」
「おう、行こうぜ!」
 本当は、分かっている。その後に待っているものを。
 しょうがない人だ。彼は、そしてそんな彼をいとおしく思ってしまう僕も。