相談がある、と言ったらミス・スメラギはにやり、と人の悪い笑みを浮かべてみせた。
「……恋でもしてるんでしょ」
俺は溜め息をついた。
なぜ女性は相談イコール恋愛に結びつけたがるのだろう。まあ確かに、そうなのだけれど。言葉につまった俺に、
「……図星?」
彼女は楽しそうに言った。俺はあきらめたように言い捨てる。
「ああ、そうだよ」
「ふうん。で、相手は誰なのよ?」
「それは……」
言えないな。そう言うと、彼女は口を尖らせた。
◇ ◇ ◇
彼女には悪いが、教えることはできない。だってまさか言えないよなあ。その相手が、アレルヤだなんて。
最近、ぼーっとしている時間が増えた。それに一番に気付き、声をかけてきたのがミス・スメラギだった。だが気付いたのは、何も彼女だけではなかったらしい。リヒティやおやっさん、おまけに刹那まで気づいていたと後で彼女に聞いた。
勿論自分でも、分かっていた。ふとした瞬間に思い出すのはいつも彼のことで、そこから何も考えられなくなる。そんな状況に、さすがにまずいと思ってはいた。でも、どうしようもなかったのだ。
うまくいくはずがないから、想像する。想像するから、ますます言えなくなる。彼が‘はい’と言ってくれるなんて、あり得ない。
もしも俺が女の子だったら、何か変わっていただろうか。もしくは彼が女だったら……。この状況も変えられたのだろうか。
◇ ◇ ◇
「それで、告白はしないの?」
ミス・スメラギはいつの間にか酒を飲み干し、コップを空にしていた。
「できないから困ってんだよ」
「ふうん? あなたなら誰でもオッケーしてくれそうなのに」
「そんなわけねえよ」
「そ? でも、告白されて嬉しくない人はいないでしょう?」
「んー」
確かに、そうだとは思う。
「それで気まずくなったらどうするんだよ?」
「言わないで後悔するより、ましじゃない?」
「そう……かな」
「そうよ。ほら」
とん、と背中を押される。
「行ってらっしゃい」
渋々送り出されながら、俺はふと思った。ミス・スメラギにも意中の人がいたらしい。前に荒れ酒を呑んでいた時に愚痴を聞いたことがある。
もう二度と会えない相手。彼女の好きな人はもうこの世にはいないと、言っていた。
だから応援してくれるのかな。俺は少し振り返り、彼女の横顔を見た。
◆ ◆ ◆
「あのさ、えっと……」
廊下でアレルヤをつかまえた俺は、彼に告白しようとしていた。彼は黙ったまま、聞いている。
「俺さ、あの」
「どうしたの? 今日のロックオン、何か変だよ?」
困ったように笑う彼を見て、段々言いづらくなる。
「あーもうっ」
髪を掻き乱し、俺は心を決めた。
「確かに言わないで後悔するより、言ってフラれた方がましだ!」
「ロックオン……?」
「だから俺は、お前が好きなんだよ!」
「え……? ええっ!?」
予想もしなかった言葉に、アレルヤは驚きを隠せないらしく固まっている。
「ほ、ほんとに?」
「何で嘘なんかつくんだよ」
「じゃあ、本当にロックオンは僕が好きなの?」
「だからそうだって!何回言わせるんだ……っ」
がばっと抱きつかれ、体勢を崩しそうになる。慌てて彼を抱きとめると、その向こうでミス・スメラギがピースをしているのが見えた。フッと笑い、ピースサインを返す。彼女も笑い、自分の部屋へ帰って行った。
◆ ◆ ◆
先日の礼をしたいとミス・スメラギを誘うと、彼女は酒が呑みたいと言った。
「また酒かよ」
「好きなのよ」
「まあ、いいけど……」
彼女のグラスに酒を注ぐ。
「でもまさか、アレルヤだとわねー」
「何だよ、変か?」
「あなたは女の子が大好きだと思ってたから」
彼女はそう言い、ケラケラと笑う。
「……そうかい」
酒を一口呑み、俺は不安に思っていたことを呟いてみる。
「やっぱ男同士ってうまくいかないかな」
しかし彼女はあまり考えもせず、
「大丈夫じゃない?」
と言った。
「そんな簡単に……」
「きっと大丈夫よ。また何かあったら、私に相談しなさい」
グラスを楽しそうに傾ける彼女を見て思う。
まったく女ってのは何でこんなに――強いんだろうな。