恋がしたい恋がしたい恋がしたい 最終回・後半 文平、夢が叶ってパン屋を開く。文平のパン屋に一郎や、涼介、藍ら皆がお祝いに立ち寄って来る。 そして…
病院に内緒で春江を連れ出す事に成功した蜜柑・春江・涼介たちは、蜜柑の勤務先である東京シェラトンホテルにチェックインします。
初めて来たホテルの部屋に春江は感激し、来てよかったと喜びます。
病院の冷たいベッドと違って快適で温かい部屋、豪華な家具や調度品に囲まれ、非日常感を楽しむ事ができ、ここで滞在した人は楽しい想い出を作る事ができて、きっと満足して帰っていくに違いないわ、と蜜柑に話します。
そして、蜜柑の仕事は素敵で価値あるものなのだから、もっと自分の仕事に誇りを持つべきよと諭します。
続けて春江は、もう自分は死ぬのなんて怖くない。自分が恐れていたのは、人生の最後で振り返れる、楽しい想い出が何もない事だった、と言います。 でも今、これまでの人生を振り返って思い出すのは、沢山の楽しい想い出ばかりだ、と言うのです。
更に、春江自身だけではなく蜜柑だっていつか死ぬ運命で、それは皆に平等に訪れることなのだ、だからこそ、失敗を恐れずに勇気を出して、色々な事に挑戦して楽しい想い出をたくさん残して欲しい、と遺言を伝えるのです。
蜜柑は涙をためながら、春江の遺言をしっかり受け止めようと頑張っていました。
それを見た涼介は、自分が席を外し、親子水入らずにしてあげた方が良いと思い帰ろうとします。
すると、蜜柑は
「待って下さい」
と涼介を引き留めます。 そしてこれからは、これまでの消極的な自分を変えて、仕事はもちろん、本を読んだり色々な所に積極的に足を運んだり、沢山の事にチャレンジいていく、と次々と涼介に宣言します。
最後に涼介の顔を正面から見ながら、
「そして、恋もします…」
と言った後、
「私は、あなたが好きです……好きです」
と、蜜柑は初めて、好きになった人に正面から告白をすることができたのでした…。
告白できて感無量の蜜柑と、それを優しく見つめる母・春江と涼介。
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ホテルから車で出て来た涼介がふと空を見上げると、雨上がりの朝、7色の虹が掛かっているのが見えました。
穏やかな気持ちでそれを見つめる涼介。
自宅マンションに近づくと、玄関前に教え子の高校生たちが涼介を訪ねてワイワイしていました。
涼介が驚いて車から降り、何があったと尋ねると、生徒達は涼介に学校に戻って担任を続けて欲しい、と口々に言います。
書いた課題のレポートをまた見て貰ってない、自分のやりたい事が分からない事で不安になった、自由って本当は難しいものだと気づいた、など様々な文句を言う生徒たちですが、皆涼介を必要としている事を不器用に伝えます。
自分が教師として皆に必要とされている、と知った涼介は
「有難う……ありがとう」
と来てくれた生徒たちに感激し、退職を取り消す事にしたのでした。
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家の前で立ち空を見上げる織江。 空の虹を確認し、勢いよく朝刊を取ると家の中に戻ります。
朝の食卓を囲む家族を見ながら、織江もまた宣言します。
「これまで、離婚する勇気も無くてウジウジしていたけど……これからは、強くなるから。
一人でも生きていけるように頑張るから!」
夫婦関係を解消する為ではなく、家族再生のために、織江は強くなることを宣言したのでした。
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実は前話のブログで、織江と渉の早朝のファミレスでの大事なシーンが一部抜け落ちていた部分があったので、今、ここで補足します。
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織江は渉に、最近の人ってメールとかツーショットダイヤルとかで繋がっている、って安心してるけど、一番大切な対面でのコミュニーケーションから逃げてるんじゃないのかな、と話します。
傷つくのが怖くて、言いたい事を言えずに、他の手段で浅い繋がりを持ってごまかそうとしていると思う、と。
(織江も渉も、素性を隠して電話したのも、そういう事だった、と自覚しています)
私たちは、傷つくのを恐れずに、大切な人の目を見ながら、自分の想いをぶつけていく事が大切なんじゃないかと思うの、と織江は最後に渉に伝えたのでした。
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同じく自分の部屋から虹をみていた渉は、織江の言葉に勇気を貰ったのか、ダイニングに行き食事をしている母と義父に宣言します。
「俺、今まで現実逃避みたいなことしていたと思う……でも、やっぱり大学に行く事にした。」
驚きながらも、嬉しい表情で渉を見つめる母と義父の二人。
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同じ頃、街で一郎の消息を尋ね廻る藍が、映画館の窓口に立ちます。
そのわずか十数メートル後方では、一郎が交差点で信号待ちをしている姿があります。
虹に気付いた一郎は、晴れやかな表情で青になった横断歩道を渡っていきます。
藍はその逆方向へ、一郎の消息を探しに足早に歩き出します。
都会の喧騒の中、すれ違ってしまう二人ですが、その足取りは決して悲観的ではなく希望を含んだものでした。
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同じ頃、不動産屋とパン屋用の店舗物件を内覧している文平が、店舗の外に出て虹を見つけます。
振り返ってその店を観直した文平は、納得した様ににっこり微笑んで不動産屋に宣言します。
「ここに決めます!」
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それから1か月ほど経った頃、涼介は学校に復帰し、歴史の授業をしていました。(幕末19世紀後半の日本史と世界史)
生徒達に質問を投げかけると、みな積極的に手をあげます。
そのうちの一人を指名しますが、答えは頓珍漢なものだったりして、教室中は笑いに包まれます。
(港の場所を聞いているのに、埼玉のいずみ?と答える生徒)
涼介は苦笑いしながら
「埼玉に港ねえし。いずみ? 何処だよ、それ?」
和気藹々と賑やかに、しかし答えが分からなくても積極的に授業に参加する子供達の姿が、復職後の涼介の充実した教師生活を表していました。
何気にふと、蜜柑の事を思い出し、近況が気になって、涼介は電話をかけます。
ところが、”この電話は現在使われておりません”のメッセージが。
勤務先のホテルに電話すると、「永山は先月末で退社しました」と言われてしまいます。
心配になった涼介は、蜜柑の自宅を訪ねることにします。
ところが、部屋に応答はなく、近所の人にも”引っ越したみたいですよ”、と言われてしまいます。
蜜柑の連絡先はおろか、仕事も変え、引っ越し先も分からず、途方にくれる涼介…。
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数日後、文平のパン屋がオープンした事を知り、涼介はお祝いを言うため店に向かう途中、偶然藍に出くわします。
藍は、出版社でのバイトも見つけ、これまでのフェミニンな服ではなく、地味なパンツスーツを着てキビキビと歩いて涼介に声をかけたのでした。
お互いに文平の開店祝いに行く事を確認し、久しぶりの再会を喜ぶ二人。
藍の雰囲気が依然と違うことに気付いた涼介は
「なんか、雰囲気変わったんじゃない?」
と声をかけますが、当の藍は「そうかな?」と自然体で、二人は仲良く元気に並んで文平の店に向かいます。
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ちょうどその頃、文平の店に一郎が訪ねて来ていました。
一郎は配送の仕事をしているらしく、以前とは異なりスーツではなく制服の青色のつなぎを着て、表情も明るく健康的な印象に変わっていました。
お店を見渡し、素敵なお店ですねと言い、
「どれも美味しそうで…迷っちゃうな~」
と微笑みながら、丁寧に文平の焼いたパンを選んでいきます。
文平は、この店が開店できたのは一郎のお陰です、立て替えて頂いた必ずお金はお返ししますとお礼を言いますが、一郎は
「いいんですよ…そんなこと気にしないで」と、感謝され、文平の人生を好転させる手伝いができた事を喜ぶのでした。
文平が一郎の近況を心配して尋ねると、配送の仕事をしながら、また小説をぽつぽつと書き始めた事を話します。
「この仕事を通して、色々な人に会ってから、また小説を書きたいと思えるようになりました」
そう言って、一郎は帰ろうとしたので、文平があわてて連絡先を聞こうとすると、
「今、携帯持ってないんで」
とニコっと会釈して、また来ます~、と一郎は仕事に戻るのでした。
入れ違いに、織江が店に入って来て、一郎とすれ違うと、雰囲気の変わりように驚きます。
「ちょっと、今の人って…」と文平に尋ねようとしますが、はぐらかされてしまいます。
仕方なく織江もパンを選び始めますが、そうしているうちに渉が来店したのを見て、お互いの近況を報告し合います。
渉は、教育学部を志望しようと思う、と織江に伝え、織江は最近絵を習い始めた、と話します。
「まだ下手だけど、家族の絵を描きたいと思っているの」
渉も着実に目標を持って前に進んでいる事を確認した織江は、
「先生になるのね…頑張って!」
と満足して会計を済ませ、家に帰っていきます。
残された渉は、パンを取りたいだけトレーに乗せながら、店の奥で黙々と作業している文平を尊敬の目で見ていました。
渉に気付いた文平が奥から出てくると
「かっこいいよ…父さん!」
と言い、会計を自分で払おうとします。
文平は、息子にプレゼントしようとするのですが、渉は
「自分で払いたいんだ…。 払わせてよ」
と父親の丹精込めて焼いたパンを沢山買って、帰っていくのでした。
自分の夢が実現したお祝いに駆けつけた息子を見送りながら、涙腺がゆるむ文平に、女店員がハンカチを差し出します。
そういうしていると、涼介と藍が店に到着します。
二人が自然体で並んでいたのを見た文平は、もしかして寄りを戻したの?…と尋ねますが、二人は笑って否定します。
女店員が「店長、お友達たくさんいるんですね~」と感心すると、
文平は一郎が立ち寄ってくれたことを二人に話し、ついさっき彼が宅配便の車に乗って仕事に戻った事を教えます。
これまで一郎の消息を訪ねて探し続けていた藍は、驚きます。
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二人で急いで店を出て、大通りでタクシーを捕まえようと涼介が手を上げた時、藍は今から追っかけても何処に行ったか分からないし、(一郎を見つけるのは)無理だよ…と躊躇します。
(これまで一郎を探し続けていたのに見つからず、思いもかけない所で目撃情報があり、動転している藍)
怯む藍に、涼介は檄を飛ばし
「彼を捕まえたら、もう絶対手を離すな」
と、藍の背中を押し、タクシーに乗せます。
「本当におせっかい…」
相変わらず照れ屋の藍は涼介の強い友情に感謝し
「ありがとう」と言ってドアを閉め、一郎を追いかけます。
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その頃蜜柑は、文平の店に向かって歩いていました。
髪型や服装も変わり、ボストンバッグを持ち日傘をさして、これまでの蜜柑とはちょっと違う印象。
(涼介が連絡を取れない蜜柑が、どうして文平の開店と店の場所を知りえたか、ちょっと疑問が残りますが、そこはスルーしたいと思います)
蜜柑はにこやかに文平の店に入り、大好きなパンを選び始めます。
”みかんちゃん”という名のかわいいパンを見つけ、蜜柑は喜び、おかっぱ頭の可愛い女の子の顔を模したパンを、トレイに乗せます。
文平、久しぶりに蜜柑に会えて、少し緊張しながら、蜜柑の様子を見ていましたが、ふと蜜柑の荷物に気付き
「これから旅行ですか?」
と尋ねます。
(やはり文平も、蜜柑の引っ越し・転職を知らない)
そこで初めて蜜柑は、今東京に出張中で、自分が転職して北海道のホテルにいること、責任の重い仕事に変わったこと、これから北海道に戻る事を文平に伝えます。
文平は思わず、涼介もこのことを知っているのかと尋ねますが、蜜柑は
「いえ…あれ以来会ってないし…」と口ごもりつつ、自分を模したパンを取り上げると
「これ可愛いですね!…ありがとうございます。私の名前使ってくれて…」
蜜柑は自分の名を取ったパンを作ってくれた文平にお礼を言い、文平も照れながら蜜柑が喜んでくれたことに安堵します。
店を去り際、蜜柑は文平に
「私の事好きだって言ってくれてありがとうございます。
…緑川さんのお陰で、私少しだけ自分に自信が持てるようになりました」
とお礼を伝え、店を去ります。
蜜柑の面影にしばし浸っていた文平ですが、暫くして涼介が戻って来たので、慌てて蜜柑の来訪を告げます。
行方不明になって蜜柑と連絡が取れず、もう会えないかもしれない…と感じていた涼介は驚きます。
文平は涼介も蜜柑に会いたがっていると感じ、
「赤井先生、蜜柑ちゃんついさっき帰ったばっかりで、今なら、まだ追いつきますよ…」と涼介に言いますが
”そうかな…でも…”と転職も転居に関しても連絡を受けていなかった自分が、空港まで追っかけるって…と感じた涼介の躊躇ぶりに業を煮やした文平は
「きっと蜜柑ちゃん、赤井先生に会いたくてここに来たんですよ…私には分かります!」と涼介の迷いを吹き飛ばします。
その言葉で、涼介は店を飛び出します。
自宅から車に乗り、急いで空港に向かう涼介。
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藍は、一郎の乗った宅配異業者の車を探して、暫くタクシーを走らせていました。
何台か、同じ会社の車とすれ違いますが、乗っているのは違う人。
今日も一郎を見つけるのは無理なのか…と諦めかけていた時、タクシーの運転手が
「あの車じゃ、ないですか?」
と右側から右折してきた車を指します。
その車の横車線を走って貰い、追いつき、並んだところで運転手の顔を確認すると、そこには一郎の横顔が!
藍の顔が安堵と喜びに変わります。
次の信号で止まった際に、藍は急いでタクシーを降り、信号待ちをしている一郎の車まで必死に走って、ドアガラスを叩きます。
藍の顔を見た一郎が驚きながら、事態を飲み込めず戸惑いながら窓を開け
「どうしたの?…」と言うと、藍は想いの丈を伝えます。
「私、あなたと同じよ。
これからは、ありのままの自分で生きていく。
人目を気にして、自分を良く見せようとしたり、
幸せな人を見て嫉妬したり、
自分を守るために嘘をついたり、
プライドのために、意地張ったり
そういう余計なもの、全部捨てる。
わたし、裸になる…」
一郎、藍が自分を探し続けていた事を知り、静かにドアを開けます。
藍、車に乗り込み一郎に微笑んだ後、まっすぐ前を見据えて
「行こう。ずっと一緒に…」と言います。
一郎、前を見つめる凛とした藍の横顔に感動しながら
「うん…」
と涙ぐみながら返事し、二人一緒にこれから生きていくことを確かめ合い、車を発車させ進んでいくのでした。
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涼介、空港まで車を飛ばして何とか間に合いますが、蜜柑の乗る予定の札幌行きの飛行機が、もうすぐ搭乗手続きを開始する事を知ると、出発ゲートまで走ります。
ちょうど蜜柑も、涼介の背後で立ち上がり、出発ゲートへと歩き始めます。
蜜柑はいつもの癖で、途中からヘッドフォンを耳に当てて音楽を聴きながら歩いていきます。
やっと、蜜柑のいるゲートに辿り着いた涼介は、蜜柑に向けて
「蜜柑ちゃん!」
と、大声を掛けるのですが、ヘッドフォンの音量が大きいのか、涼介の声に気付く事ができません。
警備員に搭乗口への立ち入りを止められ、なんとか可能な立ち位置を確保すると、涼介はジロジロ眺める旅客達をよそに、蜜柑に向かって必死に叫び続けます。
「俺ね…、今まで本当に情けない男で、笑っちゃうくらいダメな奴だったけどさ…
(略)
色んな人を知って、色んな人を好きになって、…
なんかね、自分でも迷いなくなったっていうか、
自分の仕事にも誇りを持てるようになったし、
自分に自信持てるようになった。
俺、今の自分好きだよ。 自分の生き方好きだよ…。
蜜柑ちゃんもそうだよね? 今の自分大好きなんだよね?」
大声で叫ぶ涼介に不審がり、蜜柑の周りの人たちがチラチラと振り返ってみる様になって、蜜柑は漸く誰かが後方で叫んでいることに気が付きます。
蜜柑がふと振り返ると、そこには涼介が、満面の笑みで蜜柑を見つめていました!
涼介は
「だから、そんなに綺麗なんだよね?
今の蜜柑ちゃん、凄い輝いているよ。
本当に輝いているよ。
頑張れ!」
涼介が、はるばる自分を追いかけて来てくれたことを察し、歓喜の蜜柑、涼介の方へ全力で走り出します。
涼介も、蜜柑を受け止めようと、両手を大きく広げます。
その胸に飛び込む蜜柑。
恋がしたい恋がしたい恋がしたい 完
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涼介は、蜜柑に”君が好きだ”とは、言っていませんが、どれだけ彼女を大切に思っているかが伝わってきます。
自分も相手も、生活が充実していて自身を好きでいる時にこそ、お互いを高め合う、いい恋愛ができるのかもしれない、
と思ってしまいました。
懸命に生き、生き方に自信を持てている事が、いい恋愛をする資格なのでしょう。
一郎と藍の関係も、当初とは違い、互いを尊重できる対等な関係になる事ができたし、
私のようにいい年になっても、恋をするって素敵だなぁ、と思えた作品でした。
次は、恋愛からは離れて、人の死に向き合い、葛藤する人たちの物語を取り上げたいと思います。
人生を変えるドラマ60へ続く