恋がしたい恋がしたい恋がしたい⑨ 第7話後半 嘘の崩壊の始まり。藍はとうとう一郎の秘密を知ってしまう。 蜜柑も涼介の部屋に忍び込んでいた事が藍にバレてしまう。一郎は藍に盗作を知られた事で、秘密を世間に打ち明ける決心をする。
涼介が藍の実家に挨拶に行っている頃、藍はエステの施術中に客の女性(洞口依子)から、紫村一郎にはとんでもない秘密があるとほのめかされます。
最初はエゴイスティックで女性に手が早い女性関係のトラブルの事だと、たかをくくっていた藍ですが、
”そんなレベルの話じゃないわよ”
”知りたければ、直接本人に聞くのね”
と、はぐらかされてしまいます。
藍は今までずっと感じていた「一郎が隠している重大な秘密」を最後に確認したくて、一郎の元を尋ねる事にします。
(自分が知らない秘密をその女性客が知っていた事に多少の嫉妬もあった?…)
一方、鍵を返すべく涼介のマンション前で佇んでいた蜜柑は、最後にどうしても部屋の中を見たくて、再度部屋の中に合鍵を使って侵入してしまいます。
すっかり模様替えして、いかにも新婚カップルの様な部屋になっている事に悲しい気持ちになる蜜柑ですが、なんと、エプロンを付け、冷蔵庫を開けて、中の物を勝手に飲んだり食べたりしてしまいます。
その中には、冷えたビールもあり、蜜柑はだんだん酔っぱらってしまいます……。
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一郎の部屋に入った藍は、一郎が憔悴しきっていて、部屋がこれまで観た事もないほど散らかっているのに驚きます。
そして、今日お店に来た綺麗な女の人から、あなたの重大な秘密について聞いた、と一郎にカマをかけます。
死んだ親友の恋人の事を指していると、咄嗟に分かった一郎は顔色を変えます。
藍は、その表情から、彼女が真実を語っていた事を確信し、
「どうして、もっと早く打ち明けてくれなかったの?……私にできる事なら何でもしたのに……」
と、秘密を打ち明けるよう一郎を誘導します。
小説が書けない事で身も心も憔悴していた一郎は、一番知られたくなかった藍に自分の嘘がバレたと思い観念し、自分の過去を語り始めます。
これまで書いてきた小説は、大学生の時に交通事故で死んでしまった親友の作品であること。
偶然遺品の中からでてきた、それらの小説は、とても自分なんかには書けない位素晴らしいものであったこと。
承認欲求が強い自分は誘惑に負けて、それらを自分の名前で発表してしまったこと。
世間は騙せたが、1人だけ、親友の元彼女には、それらが死んだ彼の書いたものである事がバレてしまったこと。
お金に困っていたその彼女から、盗作をネタに脅迫され続けてきたこと。
「書けるものは何もない。 もう僕には何もないんだ…。」
「わかっただろう? 僕はどうしようもない人間だって…」
これまで、胸にしまい込んでいた”盗作”という重い荷物を下ろした事で、床に座り込んだ一郎は半ば解放された脱力した表情で藍を見つめます…。
一郎の余りに重い秘密を知ってしまった藍は、かける言葉が見つからず、立ち尽くします。
沈黙の後、一郎は
「一人にしてくれないかな…」
と藍に帰宅を促します。
一郎が自暴自棄になる事を恐れた藍は、思わず
「でも…」
と、声をかけますが、
「大丈夫。死ぬ勇気もないんだよ、僕には……」
とシニカルに力なく笑う一郎。
一郎に自分が今やってあげられる事はない、と判断した藍は、一郎の破いた自身の著作本を机に戻し、部屋を出ていきます。
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涼介のマンションに戻った藍は、部屋の鍵が開いていて、見覚えのある靴が玄関にあることを発見します。
中に入ると、床に転がって寝ているお酒臭い蜜柑を見つけ、驚きます。
冷蔵庫の扉は開いており、蜜柑が飲み食いした事を知り、これまで起こった不思議事件(掃除した覚えのないリビングが綺麗になっていたり、汚れていた車が知らない間にピカピカになっていた事件)の犯人が蜜柑であったことを確信します。
藍は、蜜柑に近寄り揺り起こして声をかけます。 当初はまどろんでいた蜜柑も、意識がはっきりすると、自分が置かれている状況が不法侵入である事に気付き、狼狽しながら、起き上がり、床に座ったまま後ずさりします。
(この辺りのお芝居は、さすが菅野美穂、といった感じです。 菅野ちゃん、本当にリアルで上手い)
「蜜柑ちゃんだったんだ…」
藍は、先ほどの一郎のショックが抜けないまま、留守時に侵入した人物が蜜柑だった事を指摘します。そして、
「彼の事、好きなんでしょ?」
と、蜜柑に問いかけますが、先ほどまで酔って寝ていた蜜柑は、恥ずかしさと混乱で言葉になりません。
ちょうどその時、涼介が帰宅してしまい、蜜柑は万事窮す、という表情になります。
藍は、何事もなかったように、蜜柑を責める事もなく、結婚式の相談に乗って貰っていたと涼介に嘘をつき、上手く話を合わせます。
藍に同情されたような救われた様に感じながらも、
「まだ、ゆっくりしていきなよ」
という涼介の優しい言葉にいたたまれず、
蜜柑は”失礼します”と辛うじて声を絞り出すと、二人に顔を見せずに逃げるように部屋を出るのでした。
藍も、「気を付けて、帰ってね」と、涼介に気付かれないよう、その場が不自然にならないよう、返事をするのでした。
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蜜柑は家路の途中、都会の喧騒の中、歩道橋の上から遠くを見つめます。
恋敵に自分の愚かな不法行為がバレた恥ずかしさと、その藍に同情されてしまった自己憐憫感、涼介にバレてしまったかもしれない自己嫌悪……追い詰められた混乱の精神状態の中、それでも蜜柑は母親が待つ家へと歩き出します。
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藍の父親に会った事で藍と結婚する決心がついた涼介は、婚姻届けを区役所に出しに行こう、と藍に提案します。
一郎の告白のショックから立ち直っていない藍は、一郎の哀しい顔を忘れる事ができず、
「私を捕まえてて……」と涼介に抱き着きます。
(幸せいっぱいの瞬間の筈なのに、切なそうな藍の表情が、一郎への気持ちを整理できていない事を暗示しています…)
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その頃織江は、渉に真実を告げるべく、意を決して渉に電話をしていました。
渉は、やっと意中の相手から電話がかかって来た事に歓喜し、すぐ電話を受けます。
「私です」
と織江の声が聞こえると、
「はい、分かってます!」
と嬉しさの余り即答する渉ですが、
「…分かってないわ」
と、織江が冷たく返すと???となる渉。
織江は、勇気を振り絞り
「いま話してるのは、この前牛丼屋であった、冴えない中年のおばさんなの」
と、残酷で滑稽な真実を渉に突き付けます。 ショックで言葉のでない渉に
「私、ウソついてたの……」
と精一杯の誠意で、渉のために、偽りに満ちた二人の疑似恋愛を終わりにするのでした。
渉はショックで、言葉が出ないまま、携帯を下ろすのでした……。
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翌日、涼介は二人の署名が記入された婚姻届けの証人の署名・捺印を貰い、二人で区役所に向かう事になっていました。
藍は掃除を済ませ、出かけようとしていた時に、一郎から電話がかかってきます。
テレビ局のスタジオで、自分の看板番組「男の敵・2時間スペシャル」の収録中の一郎は、これから全ての真実を告白する、と藍に告げます。
藍は、今まで作り上げた紫村一郎の全てが崩壊すると感じ、
「今からでも書けばいいじゃない」
と言いますが、一郎からの沈黙はそれが無理な事を表していました。
一郎の悲壮な決意を確信した藍は、思わず
「あなただったらできるわよ…お願いだからバカな事はやめて‼」
と訴えますが、決意の固さを表すように、一郎からの電話は切れてしまいます。
途方に暮れる藍ですが、続けて涼介からも電話が入ってきます。
これから区役所に行くから、現地で待ち合わせよう、と伝える涼介に、うん……、と思考停止のまま返事をする藍。
反射的に部屋を出て、階下に降り、タクシーを呼び止めて藍は乗り込みます。
タクシーのドアを閉め、行き先を少し考えてから告げる藍。
中野区役所で、藍を待っている涼介。
うつろな瞳でスタジオ収録を待つ一郎。
藍が乗ったタクシーは、走り出します。
AD(アシスタント・ディレクター)の合図でスタジオセットに入る一郎ほか出演者たち。
藍の乗ったタクシーは、テレビ局の前で止まります。
車内から飛び出し、テレビ局のビルへ入る藍。(藍は悩んだ結果、涼介ではなく一郎の元に向かったのでした…)
藍は一郎の暴露を止めようと、スタジオのある階までエレベータで辿り着きますが、警備員に止められてその先に進むことができません。
(そもそもテレビ局は、本来テロ等に備えて入室管理が厳しく、簡単にビル内にすら入る事はできないのですが…)
ディレクターからキューがかかり、一郎の番組の生放送が始まります。
第7話終わり
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今回は、一郎の自己欺瞞の緊張の糸が切れた回でした。
このドラマでの一郎は、見栄っ張りで女にだらしなくて、女性にとって最悪の男なのですが、演者の及川光博さんは、実は私のお気に入りの俳優さんです。
知的でプライドが高いわりに自己肯定感が低く、コンプレックスも強い、母性本能をくすぐられる見栄っ張りでダンディーな役を演じさせたら、こんなに自然体に演じきれる俳優さんはいないとさえ思っています。
今回も敢えて藍に宣言することで、藍が自分を心配してくれる事を確かめつつ、自分の退路を断ってテレビで告白する事を決めた紫村一郎(及川さんではなく)は、昔の私にとってドストライクの男性でした。
でした…という過去形で表したのは、私にとって、その手の男性は申し出を拒否しずらい私を振り回すタイプであって、私を幸せにする事ができないタイプだと、心理学を勉強してきたこの10年余りで、客観的に心から実感し、冷静に観察する事ができるようになったからです。
そのため、水野美紀さん演じる羽田藍が、涼介が自分を幸せにするタイプだと気づいて結婚を決意したにも関わらず、我儘で弱くて自己中の一郎から目が離せない、放っておけないタイプなのは良く理解できるのです。(私も、藍と同様、親子関係のスキンシップや信頼関係がしっかり築けていない愛着障害の傾向があると思っています)
恐らく、藍を振り回しながら、実は藍に甘えている一郎も、家族関係が希薄か険悪で、愛情に飢えた環境で生きて来た似た者どうしなのだと思います。
(次回に、一郎のバックグラウンドが少し明かされます)
今回、一番感動したのは、織江が正直に、冴えないおばさんの正体を明かした事です。
その際に流れてきた、以下の一郎のナレーションが、心を締め付けられるくらい印象に残りました。
結局、愛なんて、愛し合っている時は、本当の意味なんか分からない。
愛する者を失った時に初めて、大切さやかけがえのなさが分かるんだ。
でも、それに気づいた時には、全てが色褪せ
何の意味も無くなっている……
人生を変えるドラマ52に続く