「さっきさ、例の教授から連絡があったよ。次回は年末にやるってさ、例のインド舞踊会を」
「とても面白かったもんね。今度は私もサリーを着こんでいこうかな。それほど高くないしね」
「さては装飾品を買わせるつもりだな。まあ協力はしてやるけど、もうすこし太ってみないとな」
「インド人と私とじゃ骨格がちがうから、あんな色気のあるような肉のつきかたはできないわよ」

日本酒試飲会ののち、友人の紹介でインドの伝統民族舞踊を一緒に踊るイベントへ参加した。
会場に100人ほどあつまり、そのほとんどは在住インド人だった。日本語も問題なく通じた。

「シンプルなダンスだったけど、フォークダンスのように次々と相手を変えるのは良かったわ」
「おなじインド人でも、リズム感が悪いやつが確実にいたもんな。映画のようにはいかないか」
「そりゃそうよ。私たちも演歌はうまく歌えないし、一部の黒人さんしかラップなんて無理だもん」
「それがあったから、楽しかったんだけどな。お互いのぎこちなさが、親近感を生むってことで」

会場に流れるインド音楽のリズムにあわせて、二本のスティックを相手と同時に打ちあわせる。

「とても簡単なはずなのに、どうしてもズレちゃう相手がいるのよね。これって相性があるのかしら」
「聞いた話では見合いがわりに、あのダンスで婚約者をきめるらしいぞ。文字どおり息のあう相手をな」
「それは極端だけど、たしかに何組かがずっと同じ相手と踊ってたわね。そういう意味だったのね」
「インド社会って、基本的に自由恋愛がないからな。ほとんどが親の決めた相手と結婚するそうだ」

いまだ厳然たる社会規範としてのカーストが、恋愛のありかたを縛りつけている。難しいところだ。

「結果的に本人が幸せであれば、出会いはどうだっていいんだけどな。ただ、選択肢はほしいが」
「あのダンスが伝統として受け継がれているのも、切なる想いが土台かもね。若かりし頃の恋愛の」

とりあえず練習しよっか、と土産のスティックを手にとる。おい、わざと出っ腹を叩くのはやめてくれ。