「しかしキツかったな。さすがに、あれだけ試飲したあとに、三時間のダンスはむりだよ」
「そういいながら結構たのしんでたじゃない。どう、おもしろかったでしょ。また行こうよ」
「もちろんだけど、日本酒は別の日にしなくちゃな。でもまあ、どれもとんでもなくうまかった」

その地域は有名な酒蔵がそろっており、こぞって試飲会をやっていた。ようはタダ酒だ。

「とはいっても試飲用のミニカップに、それぞれ少しずつだったけどな。でも充分に酔えた」
「どれも美味しかったよね。とくに大吟醸だっけ、あれって年代物のワインみたいだったわ」
「そうだなあ。やっぱり雑味を極限にとっていくと、ああいうまろやかな味になっていくんだな」
「私の好みは、もうすこし尖った味がすきなんだけどね。もちろん、大吟醸のも大好きだけど」

時間の都合で4軒しかまわれなかったが、最後の蔵の金賞をとった大吟醸には圧巻だった。

「なにしろ一升が一万円だもんな。とはいっても、とはいってもワインボトルなら四千円くらいか」
「そう思うと安いよね。でもタダでは飲めなかったじゃない。カップいっぱいに注いでくれたけど」
「それだけ本気になって呑んでくれってことさ。まあ、芸術としかいいようのない味だったがな」
「でもね、なんか引っかかりがまったくなくて面白くないのよ。おいしいことには違いないけど」

たしかにそれは言える。あまりにもスイスイと呑めるので、かえって味わうヒマがないというか。

「なんだろうな。クセのなさを良いととるかどうかだ。所詮は好みといってしまえば、そうだけど」
「純愛って、そういうものかもしれないよね。でも、ちょっとは刺激がほしいのもたしかだわ」

たとえばわがまま言うとかね、と彼女がチラ見する。その目が腕枕のリクエストなのは、お見通しだよ。