「最近は音楽をきく時間というか、機会がなかったからさ。やっぱりいいもんだよな、ライブは」
「私はこの手のものは聞かないほうだったけど、一体感がすごかったよね。みんな合唱してて」
「ああ。そこには恥も外聞もないからな。ただ自分の気持ちにしたがっていればいいんだよ」
「あんなに大勢の人を一度にあやつれる能力というか、度胸というかね。圧倒されちゃったわ」

ライブの見終えてからの耳鳴りがのこる感覚は、本当に久しぶりだ。自然と話し声が大きくなる。

「人って、大声をだすと自然と感情がはげしくなるものよね。喜怒哀楽が。そのぶん疲れるけど」
「俺なんてもう喉がガラガラだし、なんか脱力感が強烈だ。とりあえずメシをくっていこうか」

ちかくの中華料理屋で適当に注文していたら、おなじような会話が隣から聞こえてきた。

「あれだけの客をあつめたんだから、当然か。みょうにテンションがあがっているのもな」
「みんな余韻にひたりたいのよ。加わった人数に比例して、その感動は深く刻まれるのかしら」
「それはどうかな。たとえば何かに没頭して、それが解決や達成した瞬間は一人でも最高だぞ」
「あなたなら、餃子や焼売を何個食べられるかの世界だよね。どうぞ、邪魔しないから」

食べ放題店だったら挑戦しているがそうではないし、つかれすぎて胃がそれほど受けつけない。

「でもさ、ああいうのは両者が互いにつくり上げるものなんだよな。全体の熱気や雰囲気はさ」
「バンド側と観客側が最初から信頼関係を保ってるってことね。思いきり楽しんでやろうって」

だから私も協力するわ、と餃子を箸で口にもってくる。俺はヨダレをたらす犬じゃないぞ。パクリ。