「仕事の取引先でちょっと話しこんでたら、面白いことを聞いてさ。なんかファンクラブがあるんだよ」
「それって、あなたのかしら。本人の知らないうちに私の手から離れていってたのね。哀しいわ」
「笑いながら言っても、まったく説得力がないぞ。その会社の係長の一人が、とにかく男前なんだと」
「それって何人くらいのファンがいるの。二ケタをこえてたら、相当なものよね。ファン層も気になるけど」

聞くところによると、その秘密裏のファンクラブは40代以上のオバサマで構成されているらしい。

「色白でかわいらしいとのことだ。俺も御尊顔を拝謁したが、なんか若手の某演歌歌手みたいだ」
「ああ、そういうのって本当にあの方々は好きよね。たぶんペットを愛でる気持ちじゃないかしら」
「たしかにセクシャルな匂いはまるでしなかったなあ。まあ、俺は男だからそう思うだけかもな」
「でも、それだけ彼女らを惹きつけるのは、そういう魅力もあるはずよ。ふと真剣になる顔とかね」

なにか経験でもあるようなことをいう。男が仕事へ取りくむ姿は、いつだってセクシャルバイオレットだ。

「一緒の職場でないかぎり、そんな顔は見られないからなあ。あなたのも見たことないもんね」
「バカいえ。俺は人生そのものが真剣一直線だ。なんだろうな、こう鋭利でピリピリしているというか」
「体つきには微塵も感じられないけどね。もうすこし、こうスパっと切れるような緊張感がほしいわ」
「いいのか。もし俺が本気に肉体改造をしたら、それこそファンクラブが全国各地にできちまうぞ」

これでも小学生時は、隣近所のお姉さんにモテたものだ。あのときが一度きりのスポットライトかも。

「よかったね。じゃなくて、ご愁傷さまね。そんなに注目をあびたいのなら、ほら用意してあげるわ」

といいいながら、懐中電灯で出っ腹のあたりを照らす。ヘソで遊べるのは ファンクラブ会長の特権だぜ。