「いきなりだものな。泊めてくれっていわれても、さすがに無理だ。いくらなんでも無茶だよな」
「そりゃそうよ。友達の友達は、申し訳ないけど赤の他人だからね。もう少し時間がほしかったわ」
「明日の夜に空港へ着くっていわれても、だからどうしたってことだよな。ホテルも決めてないなんて」
「世の中のバックパッカーって、そんな感じなのかしら。そうだとしたら、ちょっと図々しすぎるわね」

台湾在住のスペイン人の知人から、友達を世話してやってくれと連絡があった。到着は明日だ。

「あいつはいいやつなんだけど、その友達がそうとは限らないしな。とにかく急すぎる。無理だ」
「こっちは明日も仕事だからね。それに計画性のない人とは、あまり付きあいたくないのよね」
「俺もいい加減なほうだが、旅の責任は自分で負うのが当然だと思う。それがなさそうだよな」
「赤の他人を非難してもしかたないけど、今回はきっぱりと断ろうよ。もう少し時間があったらね」

困った人に親切をほどこすのは座右の銘だが、自堕落的な困りかたにはあまり関わりたくない。

「でも、それは俺たちだけの感覚なのかもしれないな。マザー・テレサのようになるべきだろうか」
「あなたって本当に心配性よね。大丈夫、むこうはそんなに真剣に考えてないはずだから」
「だけどなあ。俺も旅の道中に地元の人からうけた親切は、つよく心にのこってるんだよな」
「だから言ったじゃない。はじめから人の親切にたよるようじゃ、ダメだって。努力が必要だわ」

たしかにそれは同感だ。自分で模索しているあいだの苦労こそが、旅の醍醐味だからだ。

「俺もプランを決めない旅は何度かしたけど、主役はあくまで自分だものな。つかみとるのも」
「そうよ。人生も一緒だと思うでしょ。最初から他人をあてにしてちゃ、本当の幸せに出会えないから」

そのなかで私はどんな存在かしら、と聞く。よりよい人生へ向かう羅針盤だ、その笑顔の方向にな。