「さっき天気予報を見たら、どうやら晴れてくれそうだ。日ごろの行いが報われたのだろう」
「なんにもしてないじゃない。もうすぐ敬老の日なんだから、お母さまの自宅へ寄ってみたら」
「それは考えているんだけどな。ツーリング帰りにチラッと顔を見せてくるよ。土産をもってな」
「たしか足が悪くなってるんだっけ。かなりのお歳なんだから、無理だけはしてほしくないわ」

じつは一泊旅行を誘ってみたが、まだ暑いのと足の痛みが引かないことで取りやめにした。

「毎年、春と秋の連休にかるく連れてやってるんだけどな。小さいころは旅行できなかったから」
「女手ひとつで二人をそだてたんだもんね。しかも、大食漢の大男たちを。本当に尊敬するわ」
「当時はメシの奪い合いだったな。五合炊きの釜が、夕食一回で空になる。しかも足りないんだ」
「たった三人でそれだから、あきれちゃうわ。私も慣れたけど、二人で三合炊きが空になるとはね」

これでも、一応は遠慮している。調子のよいときは、一人で三合メシのペロリはあたりまえだった。

「メシの話はいいんだよ。なにしろ家族旅行という体験がほとんどない。気にはしなかったがな」
「そりゃ、休みの日はゆっくりしたいだろうから無理だよね。でも偉いわ、お返しをしてあげてるのは」
「年寄りだからさ、知らない土地には行きたがらないんだよ。でも、帰りにはまた行こうとなるんだな」
「たぶん、息子の前ではいつまでも強がっていたいのよ。その裏返しで、最初は渋るんじゃないかな」

おそらく、そういうことだと感じていた。気のおけない行動範囲が、やっぱり心地よいのだろう。

「歳をとっても、好奇心はいつまでも保ってほしい。それが長生きへのモチベーションになるからな」
「なんか嬉しくなるわね。これで私も安心して、歳を重ねることができるわ。頼むわよ、人生のガイド様」

プレッシャーをかけやがる。基本的に男のほうが短命だから、そろそろ三合を二合に変えてみるか。