「転勤で引っ越した友人が帰省しててさ。ひさしぶりに会ったら、ちょっとやつれていたよ」
「なれない土地でいきなり暮らすのは難しいわよ。本人が希望していたのならともかくね」
「いや、そいつは納得したうえでの転勤だったけど、嫁さんがな。かるい鬱状態になってるそうだ」

それまで住みなれた大都市から、遠く離れた郊外の地方都市へ移ったことがストレスになった。

「やっぱり友だちができないってさ。俺も嫁さんとは何度か会ったけど、かなり快活だったがなあ」
「いろいろとあるのよ、そういうのって。言葉や生活環境の違いもあるし、とくに女だったらねえ」
「彼女は車の免許をもってないんだよな。それが家で引きこもるのに拍車をかけたそうだ」
「そういう土地は車社会だからね。私も自転車での外出が当たり前だから、つらくなるかもね」

それでも市民サークルにいくつか参加して、無理をする必要のないコミュニティを探したそうだ。

「ところが、よそ者を受けつけない何かが存在したんだとさ。悪気はないんだろうともいってたが」
「たぶん、ふだんディナーに使っていた店の話題とかを出したんじゃない。女はそういうのに敏感だから」
「それって、いわば田舎者のひがみじゃないか。いまどき、そんなので村八分にするのかなあ」
「あなたが知らないだけよ。とくに車社会だとお酒が飲めないから、シャレた店には行きづらいしね」

そういうものかと納得すると同時に、それが理由ならじつに哀しい。実際、ずっと寝こんでいるそうだ。

「住めば都とはいうが、そこに友だちがいるかどうかで気持ちの有り様は相当ことなるんだろうな」
「そうね。やっぱり息抜きしたいじゃない、同性同士で。あなたの知らないところで、いろいろとね」

どうせ陰口でも叩いてるんだろというと、さあねとはぐらかす。ノロケ話で村八分にならなきゃいいがな。