「いいよなあ、本当にすばらしいよな。どんな土産よりも、子供たちの笑顔が最高の思い出になるよな」
「こんな写真を見せられたらねえ。中央アジアかあ、想像もつかないけど親近感はぐっと増したわ」
「そんなに構える必要はないんだよ。同じ人間なんだからさ、違いなんてのはほんのわずかさ」
「この純真な子供たちをみると、なにも変わらないって思うよね。この女の子なんて、とくにかわいいわ」

パキスタンの民族衣装をまとう5、6歳の少女。柱のかげから恥ずかしそうに、こちらを伺っている。

「思ったより安全だったそうだ。とくに北のほうは。アフガンとの国境付近はさすがにヤバかったそうだが」
「普通はいかないよね、日本人なら。それだけで付加価値がついて、さらわれる要因になっちゃうから」
「そこの村へ訪れるのに、数人の男に囲まれながら移動したらしいぞ。しかも銃をたずさえながらな」
「いつ、その銃がこっちへ向けられるのかを考えると、とてもじゃないけど行く気にはなれないわね」

それでも訪れる日本人は、年に50人ほどいるそうだ。よほどの命知らずなのか、たんに無頓着なのか。

「いったん村に入ってしまうと、安全といってた。怖いのはそこまでの道中だそうだ。強盗に遭うからな」
「夜中に一人で帰り道を歩くようなものね。いくら知った道でも、やっぱり緊張するわ。女だからとくにね」
「その国際版だな。襲ってくるのが痴漢か強盗になるかだ。純粋な目の子供もこうなるのだろうかな」
「犯罪者に同情はしないけど、しかたないって思いはあるわ。だからこそ自己責任で身を守らなきゃね」

肝心のメシはシルクロードをたどっただけあって、中華からアラブへと変わる味の旅だったそうだ。

「キルギスとウズベキが味の境目らしい。民族もモンゴル系からトルコ系へと入れかわるみたいだ」
「そういった雰囲気は、絶対に日本では味わえないよね。衣裳がとにかくきれいよね。着てみたいなあ」
「どうだ。いっちょ考えてみるか、中央アジア旅行を。月並みだけど、失った何かを取りもどせるかもな」

しばらく考えこんだのち、やっぱり無理だわと彼女がいう。治安の問題かというと、そうじゃないとのこと。

「だってさ、こんなに無垢な子供たちがたくさんいるんでしょ。たぶん、二度と帰れなくなっちゃうわ」

私は一人っ子だったから、と羨ましそうな顔をする。俺に似た顔でいいのなら、これから協力してやるぜ。