「すまんな、墓参りにつきあわせて。本当は自分のところに行きたかったろう。無理いって悪いな」
「いいのよ、ウチはそこまで気にするわけじゃないから。実際、父親の実家は遠いからね」
「本当は母親と毎年行ってるんだがな。今年の初めに足を悪くしてから、上り坂がキツくてさ」
「お母さまの代理でお参りできたことが光栄だわ。あなたのご先祖様へ失礼にならなかったかしら」

それほど信心深くもなければ、墓参りも盆くらいなもの。来てくれることだけで有り難がるはずだ。

「あの世から戻ってくるのだから、それなりにキレイにしてやらなきゃな。水やりもしたし充分だろう」
「花はあれでよかったかしら。迎え火かわりにロウソクも立てたかったけど、ここは禁止してるのね」
「なんか、だいぶ前にちょっとした火事があったらしくてさ。大量のお供え品に引火したんだと」
「せっかく帰ってきたと思ったら、地獄の業火だったらショックよね。霊魂も燃えつきちゃうわ」

その存在を信じるか否かはともかく、年に一度くらいは亡き者の想い出を肴にして呑んでやりたい。

「私もときどきね、こうやって思い出してくれたらなって考えることがあるの。どんな別れ方をしても」
「おいおい、へんなことをいうなよ。俺は物忘れが悪いほうだから、その点は安心してくれ。大丈夫だ」
「ありがと。私もあなたのお墓には、カップラーメンを毎日供えるからね。それともオニギリがいいかしら」

それはオニギリがよいにきまっている。霊がのりうつったハトやスズメたちが、食欲を満たすだろうから。

「そうか、これでさびしい思いをしなくてすむわ。毎朝、天から舞い降りてくるあなたに会えるのね」

たまにはタヌキとなって現れるかも。そのときはお腹をポンポコならしながら、足りないぞと催促するよ。