「仕事の取引先で面白い話をきけたよ。そこは、いわゆる人材派遣をやってる会社なんだがな」
「派遣って、なんかイメージがよくないのよね。どうしても使い捨てって感じがあるの」
「そういう会社もあるだろうけど、今日のところはアットホームな雰囲気でさ。高齢者がメインというか」

60代の者でも活躍できるような仕事を紹介しており、実際に派遣社員とスタッフは親密な仲だった。

「二度転職した俺だけど正社員一本だからさ、正直よくわかなかったんだよ。派遣ってものが」
「私は今の会社でずっと勤めているけど、友だちの何人かは派遣だわ。シビアな契約らしいわよ」
「もちろん、そういうのが基本なんだろうな。でさ、興味深かったのが試験監督の派遣についてだ」
「あの人たちって、そういう雇用形態だったの。てっきり大学とかの関係者だとおもってたわ」

受注元の公私に関係なく、基本的には入札で請け負う業者を決め、会場等もそこが決めるそうだ。

「で、その業者は当然、試験監督員の募集をすることになる。そこで高齢者の出番になるんだよな」
「まあ、暇している人が多いだろうからね。そんなに難しいことはないと思うし。私もやってみようかな」
「実際、そうなんだよな。全国的にあちこちでそういう募集があり、マニアは年間200回を超えるとか」
「それはすごいよね。というか、もうプロと名乗ってもいいわ。交通費とかが気になるけど、出るのかしら」

基本的には交通費込みの日給であり、近場でないときの旨みはあまりない。趣味にしないと無理だ。

「最近に法改正されて、日雇いに準ずる派遣は高齢者か障害者以外は禁止されたんだよな」
「なるほどね。年金をもらっている人なら、交通費がかかっても仕事で生きがいを得られるならね」
「老若の差で質があまり変わらないのなら、こういった需要を供給するのは良いことだとおもったよ」
「試験官くらいっていったら語弊があるけど、不正をただす人は高齢者のほうが説得力があるからね」

でも私には務まりそうにないわ、とうそぶく。へんなところを触ろうとしたら、ペシッと手を叩いたのは誰だ。