「なんだかんだいって、よいものだな花火は。この暑苦しささえなけりゃ、最高なんだが」
「ちょうどいい感じの穴場で見られてよかったじゃない。シートを広げて寝ころがってさ」
「ビールをさんざん飲んだので、眠くてかなわん。正直、10分も見れば飽きちゃってさ」
「大小色とりどりで華やかだったじゃない。あなたって、飲むか食べるかばっかりだったよね」

そんなことはない。その合間をぬって、競技花火の審査員のように厳格な評価を行なっていた。

「ちょっとバランスが悪いとか、発色の細やかさにかけるとかな。これでも花火五段なんだぜ」
「明らかなデタラメはおもしろくないわ。だいたい、そんな見方だったら楽しめないじゃない」
「玄人連中は、同心円状に広がる花火の中心点からのずれ方を酒の肴にするそうだぞ」
「たんなる嫌味な人じゃない、それって。わあ、きれいなだあ、すてきだなあ、でいいのよ」

もちろん極端な例を出しただけだが、実際にこういうマニアがいる。心のせまい連中だ。

「俺は花火については良い思い出がないんだよな。まさに初恋が火薬とともに散ったから」
「それっていつの話なの。燃えにもえた恋の火花が大空を焦がしたと思えばいいじゃない」
「そんなロマンチックな話じゃないよ。なにしろ屋台でヤキソバを買っている間にはぐれたからな」
「あなたらしいわ。人混みで見つけられなくて、結果的にフラれたってわけね。なんか時代だよね」

携帯電話があれば、その後の人生も変わっただろう。もしくはヤキソバ屋台に浮気をしなければ。

「ほんのボタンのかけ違いで、運命って決まるのよね。でもそれは、選択した結果と思いたいわ」
「いろんな苦労も、終わりよければすべて良しだもんな。花火のようにパッと輝く人生もよいが」
「私は線香花火でいいわ。ホソボソとしながらも、息のながい灯りをともしたい。いつまでもね」

そういいながら手をつないできた。しっかりと握りしめ、今度こそはぐれぬように俺たちの道を歩くぞ。