「久しぶりにあった友人がさ、すっかりやつれていてさ。なんかもう、かわいそうなくらいだったよ」
「転職先で苦しんでいた、あの人ね。だいぶ前に食事したとき、肌が合わないって愚痴ってたわね」
「あいつは体はでかいくせに、デリケートというか小心者というか。苦情処理に参っていた様子だった」
「外見で判断しちゃダメよ。関係する人の心を気遣いすぎて、きっとバランスを崩したんだろうね」

髪の毛に白いものがかなり混じっており、顔色もわるく肌も荒れていた。明らかに異常が見られる。

「そんなところさっさと辞めろと言っちまったよ。すくなくとも別の部署への異動を申し出ろってさ」
「そうしたいのは山々だけど、実際にはできないんだろね。たしか去年に赤ちゃんが生まれたんだっけ」
「うん。嫁と子供の手前、路頭に迷わすことはできないってさ。それは分かるけど、このままじゃな」
「でもこのままだと、もっとひどいことになるわ。すくなくとも良くなる方向にはならないと思う」

ストレスで倒れるくらいなら、逃げ出したほうがいい。他人より、まずは自分の幸せを考えることだ。

「そうはいっても、ヤツにとっては家族を養うことだけが生きがいなんだよ。本当に喜んでたから」
「結婚式は号泣してたよね。それまでフラフラした生き方から、急に心変わりしちゃったから」
「それだけ嫁に惚れこんだ。そしてその絆である赤子に、残り人生の全てを捧げるといってた」
「何でもかんでも背負いすぎるのよ。それは形をかえたワガママだわ。他人を頼らなきゃダメ」

結婚するまで生活のすべてを一人でこなしていただけに、頼れる者への甘え方を忘れたのだろう。

「とにかく、できるだけ連絡し続けることにするよ。嫁さんにも話したほうがいいんだろうかな」
「それは難しいところね。プライドを傷つけるから。だったら私がその役をするわ、あなたは黙ってて」
「わざわざ損な役を引き受けることはないよ。かえって混乱させるかもしれないし、俺が何とかするよ」
「バカ。さっき言ったじゃない、背負いすぎることはワガママな証拠だって。あなたも、そうなりたいの」

すこし強い口調で説教された。こういうときは男より女がしっかりしている。何事もバランスが大事、か。