「土曜はすまん。どうしても友人との会合があって、同席させられない。仕事の話だからな」
「どっちがメインなのよ。焼肉食べ放題の店って、電話から思いきり聞こえていたわよ」
「バレたか。まあ、会社での同僚だから嘘はついてない。たまたま焼肉での会食なだけだ」
「まったく気にしてないから大丈夫よ。夏バテで食欲が落ちてるから。私の分までたべてきて」

1500円で二時間食べ放題という魅力的な条件に
二つ返事で承諾したのはいうまでもない。

「じつはさ、婚活パーティーで出会った相手との食事だったそうだ。で、直前にフラれたってわけさ」
「最初のデートに焼肉で、しかも食べ放題かあ。そこは無難にイタリアンくらいがよかったかも」
「食事の内容で男の価値をはかるなど、バカげている。食べ放題なんだぞ。最高の夜じゃないか」
「あなたみたいに
ひたすら食べつづける女性が最初のデートの相手だったら、どう思うのよ」

なんて勇ましい女だと感服至極になるが、さすがに大和撫子なところも押さえておきたい。

「でも、食い物にそこまでこだわっても仕方ないじゃないか。互いの好みがわからないんだからさ」
「菜食メインのバイキングとかいいかも。やっぱり肉を大量に食べる姿は見られたくないのよ」
「くだらない見栄だなあ。今後、付き合うのなら文字どおり健康的だぜ。食をさらけだすのは」
「いってることは分かるけど、女のプライドも理解してほしいわ。で、当の本人は落ちこんでるの」

電話での様子はカラ元気というか、妙に声がはっていた。フラれた思いを焼肉で迎えうつつもりだ。

「とりあえず満腹になっておけば、幸福感は味わえるからな。もちろんグチは聞いてやるが」
「今からでも遅くないから、その彼女へ連絡させなきゃ。きっと待ってるはずよ、彼からの声を」

それは電話でも感じていた。中途半端で投げ出すくらいなら、肉同様にその身を焦がすべきだ。
明日はキャンセルしなよ、と彼女が訴える。どうやら週末の夜をとられることに、妬けているらしい。