「いやあ、まいったよ。こんな時期に社内のレイアウト変更だからさ。ようは机やPCの移動さ」
「シャツもびしょ濡れじゃない。よっぽど汗をかいてきたのね。はやくシャワーをあびてきて」

いわれる間もなく風呂場へとびこみ、温水で体中の汗をあらいながす。最高の瞬間だ。

「かなり水分がとられたからな。今日はビールを二本もらうよ。ノドが涸れ井戸になりそうだ」
「わかったわ、私も付きあうから。でも、水もしっかりとらなきゃだめよ、かえって脱水するから」
「了解、まず一杯いただくぞ。うん、これで生きかえった。あと二時間くらいは生きられそうだ」
「ずいぶんと短い寿命なのね。ガソリンがわりにしては、あまりに燃費がわるすぎるわ」
「それだけ水分を欲していたわけさ。次の一杯でさらに寿命がのびるから、安心しな」

燃料切れになったあなたを見てみたいわ、と彼女がビールをしまう。というより残りを飲みほした。

「おい。そんなに一気に飲んじゃって大丈夫かよ。ふだんも半分くらいしか飲まないくせに」
「心配無用よ。度数がひくいから、酔うぶんには平気。でもねちょっと、なんか体が熱くなってきたわ」

顔が紅潮している。ワインのときも時間をかけているので、急なアルコールに体が驚いているのか。

「おかしいな、自分でも赤くなってるのがわかるわ。まあ、たまにはこんなのもいいよね」
「俺はべつに構わないけどさ、すこし心配になるなあ。大丈夫か、横にならなくてさ」
「平気だっていってるじゃない、平気。本当に大丈夫だから。心配、心配か。あははは」

相当に酔いがまわっている。こんな状態はめずらしいが、陽気なぶんには大したことなかろう。

「うーん、体が重くなってきた。ちょっといいかしら横になって、よいしょっと。ごめんね、暑いでしょ」

返事をする間もなく体を猫のようにあずける。動悸が速いのは酔いのせいか、それとも今夜の期待かな。