「こう暑いと外にでるのが嫌になるな。汗だらけになるし、その匂いでまいってしまう」
「自分の香りって、あまりわからないものだけどね。食い意地が嗅覚を鋭くさせるのかしら」
「それはあるかもな。いちばん気になるのは、頭からの
匂いなんだよ。シャンプーのせいかな」

洗い流しかたが悪いせいか、それとも元からなのか。額からつたわる汗に狂いそうだ。

「この時期だけは丸坊主のほうが、いろいろと便利だよな。いまやファッション化してるし」
「たしかに匂いのことを気にするなら、そうかもね。手入れも楽だし、すずしいし」
「よし、決めた。明日から出家だ。今後は俺を大師とよんでくれ。さっそく悟らなきゃな」
「カップラーメンを食べながら言ったって、なんの説得力もないわ。麺小僧がお似合いよ」

夏バテでカロリーを失いやすいときにこそ、腹を満たす必要がある。食からは解脱できない。

「でもなあ。さっきテレビでやってたけど、かがんだときの胸チラからも解脱できないぞ」
「モテる女性の仕草ってやつね。たんにエッチなことを想像させてるだけよね、それって」
「ああ、もちろんだ。どこまでも本能はまとわりつくのさ。それを失った人生はつまらんぞ」
「四六時中、鼻息を荒くするのもどうかしらね。ほどよいバランスが大事よ。はい、タオル」

あまりにうますぎて一気に食べたせいか、額が汗だくだ。よけいな塩分がダシの味を変えそうだ。

「あなたの汗の匂いは、そんなに気にならないけど。たんに慣れちゃったからかな」
「それはマズいぞ。なにしろフェロモンでもあるからな。とうとう鼻が悟ってしまったか」
「それって別れの予感ってことかしら。あなただって、私のには気づかないんじゃないの」

互いのフェロモンがほどよくまじりあうと、匂いは消えるという。次に気づくのは未来のミルクの香りかな。