「マダカスカルかあ、いいなあ。みんな、じつによい表情をしているな。やっぱりアフリカかなあ」
「老後をここでくらすのは、ちょっとハードよ。物価は安いから年金で充分にまかなえるけど」
「そうだよ、それでいこう。もう、あくせく働く必要はないや。みろよ、このバス。ボロボロだぜ」
「というより大型のワゴン車よね。味があってたしかにいいけど、毎日がこれじゃねえ」

一時的な滞在と実際にすむのでは、大いに異なるのはあたりまえだ。そこは我慢のしどころ。
しかも現地は英語がほとんど通じなく、フランス語が準公用語。ジュテームくらいしか言えない。

「なんかさ、アフリカらしい荒々しさとういか凶暴性みたいなものが、まるで感じないんだよな」
「さっきナレーターがいってたよね。東南アジアの人と同じマレー系だって。そうは見えないけど」
「やたらに米飯がでてきたのは、そういうわけか。すくなくとも俺はそれだけで親近感がわく」
「オカズは貧しそうな感じだけど、ゴハンの量は多かったわね。あなたならすぐになじむよね」

それほど豊かでない国だが、この時間がとまった独特の雰囲気にハマりたい気分だ。

「なんだろうな、マレーシアの田舎町を訪れたときに似てるんだよな。彼らの笑顔の感じがさ」
「いってることはわかるけど、となりの芝生ってあるからね。彼らはこっちを憧れてるわよ」
「でもさあ。いつでもマイペースでくらせる環境って、やっぱり精神的に豊かだと思わないか」
「なにかに追われることのない日々は、たしかに素晴らしいよね。でも貧困と背中合わせなのよ」

途上国ならではの子だくさんが、生活を苦しめる。だが、基本的に子供の多い社会は未来がある。

「たしかに彼らの笑顔は、何にもまして幸せの象徴よね。じゃ、それにむけて準備しなきゃ」

いきなりプレッシャーを与えやがる。そこはマイペースで行こうじゃないか
未来の子供のために。