「こりゃ濃いなあ。さすがは7%。味も独特だよ、ほれ飲んでみな」
「じゃ、ちょっとだけね。うーん、これは今まで体験したことのない味だわ」
「この柑橘系の味はベルギー産にちかいが、もっとドギツイというか下品というか」
「日本では絶対に売れない味よね。たんなる慣れの問題かもしれないけど」

NY在住の友人からもらった土産のクラフトビール。なかなかクセがあって面白い。
あまりにコクがつよいせいか、国産のように一気飲みできない。これは長持ちできそうだ。

「麦芽の香りもかなりキツイな。個性のありかたが、いかにもアメリカっぽい」
「こんなのを飲むと、やっぱり日本人だと思わされるよね。なんか急に旅行したくなったわ」
「アメリカはいやだぞ。ビールはともかく、食には閉口したからな。なにしろ極端な味しかない」
「それも旅の醍醐味だって、前にいってたじゃない。異文化の出会いをチャンスと思えって」

たしかに自慢気にいった。それはいまでも人生の立脚点だし、これからも邁進するつもりだ。

「でもなあ。わざわざ残念な味の世界へ飛びこむのは、ストレスしかないぞ。寿命を縮めちまう」
「めずらしく弱気ね。相当に貧しい食の旅だったのかしら。私はそこまで思わなかったけど」
「たしかロスへいったんだっけ。ヒスパニック系が多いから、スペイン料理風なのかもなあ」
「NYは人種のるつぼって言われるじゃない。それこそ各国料理が味わえたんじゃなかったの」

インドにギリシャ、韓国、ペルシャなどのレストランをめぐってきたが、どれも当たりはなかった。
なにしろ極端な味付けで、とても地元の味とはいいがたい。とくにインドカレーは香水の味がした。

「世界を代表する都市なくせに、なんだろうと思ったよ。まあ、それが面白かったんだけどな」
「認めなきゃダメよ、このビールみたいにね。それにしても減らないわね、顔も真っ赤だし」

慣れない味のせいで、酔いが早い。急に彼女の膝枕がほしくなった。慣れた香りに包まれたいから。