ひさしぶりにオブジェと化したギターを手にとる。いくつか弾くまえに、のびた爪をきる。
すっかり柔らかくなった指の腹。タコまみれと、深爪になやんだ昔がなつかしい。

「さすがに動かないもんだなあ。左手より、右手がだめだ。感覚がもどらないぞ」
「それでも、ちゃんと音はでるのね。中途半端じゃないところが、あなたらしいわ」
「ギターにかぎらず、楽器は鳴らしてこそだからな。音はでかいほうが気持ちいい」
「私も久しぶりにピアノを弾いてみようかな。ヘッドホンでのキーボードじゃ、雰囲気がねえ」

せっかく身につけたスキルだから、遠慮はいらない。今度、二人でスタジオを借りてみようか。

「ほんとに長い間、行ってないわ。好き勝手に大きな音を鳴らせる幸せって、他にないよね」
「まあ、カラオケという手段もあるがな。とにかく体ごと何かを表現するのは、よいことだ」
「とくに女性は抑制されているから。無意識にね。そんなの気にする必要はないんだけど」
「そうだなあ。うん。ちょっとスケベなことを考えてしまったが、まあそういうことだろう」

バカね、といいつつ頬を赤らめる彼女。そのときばかりは無意識で結構。誰もみていない。

「ともあれ、今週末にでも予約をとっておこう。そのまえに何をやるか、予行練習しておくか」
「うん。ちょっと恥ずかしいけど、やってみますか。やさしく教えてよ。ゆっくりと時間をかけてね」
「おい、なにげにそっちの話題へ持っていってないか。俺はどっちでもいいけどな」
「あなたの想像する話題がどんなのかしらないけど、気持ちよくなるのならいつでもOKよ」

ふと見れば、ワインボトルが半分あいている。みょうに赤らんだ顔は、これが原因か。

「じゃ、よろしくお願いします。予約だけど、どっちもとっておいてね。まかせるから」

目を半開きにしながら、腹を指で奏でる彼女。どっちのプレイがメインになることやら。