「いやあ、やっぱりビールだな。これがないと夏は乗りきれん。生きててよかった」
「オーバーね。たしかに今日は本当に暑いから、飲みほせるものがほしいわ」
「この適度な苦味が、サッパリ感をあたえるんだろうな。同じ炭酸でもジュースじゃだめだ」

大量の汗をかいたあとなので、もう一缶あいてしまった。おかわりをするか悩むところだ。

「俺はこうみえて、健康には気をつかうほうなんだよ。適切な飲食は長生きの秘訣だ」
「まったく説得力がないわよ。そう思うのなら、炭水化物をバカみたいにとらないことね」
「それは日本人として許されないことだ。米飯はすべての行動へのエネルギー源だか

「あのね。カップラーメンとかヤキソバを
夜食で食べるのはやめてといってるの」

わかっているけど、こればかりはやめられない。夜半すぎの麺類は、悪魔のささやきだ。

「今夜は大丈夫だよ。これだけ暑いと食欲もわいてこない。ビール三本くらいで充分だ」
「さっき健康に気をつかうっていったじゃない。明日のこともあるから、あと一缶だけにして」
「冗談だよ。一本あけると、あとは甘みだけしか感じるない。苦味がマヒしちゃうんだろな」

あれほど一気飲みしたビールも、二缶目の途中ではやくも飽きてきた。甘ったるい。

「もう、顔が真っ赤になってるじゃない。風呂あがりは血行が良くなる分、酔いも早いのね」
「そうだなあ。脱水も進んでいたから、一気飲みすればするほど瞬時に吸収されるんだな」
「なんか、うらやましいわ。飲んで食べて酔って、あっという間にね。幸せの縮図じゃない」

ご名答。その最大の要因たる彼女へ、ビールを注ぐ。小さな幸せで結構。存分に酔っていようぜ。