「しまった、ビールを切らしてたか。まいったなあ。風呂あがりの一杯をどうするか」
「白ワインがすこしだけ残っているけど、あとで料理につかいたいからなあ」
「よし、とっておきの梅酒をのむか。この甘ったるさは湯あがりには似合わないがな」

さっそく水で割ってから氷をいれる。味はほどんど梅ジュースにちかい。酔えるだろうか。

「私は好きだけどね、この味。ちょっとクセがあるから、おつまみはいらないよね」
「そうだなあ、やっぱり甘いや。一気に飲めないところが、なんとももどかしい」
「たまにはゆったりとした晩酌でいいじゃない。クールダウンにはちょうどいいわ」

休日あけの仕事は、普段の三割増しで忙しかった。精神的な疲れは甘みがやわらげる。

「うーん、飲みきれるかどうか自信がなくなってきた。たぶん一時間はかかっちまうぞ」
「ビールだと5分もかからないのにね。強制的にペースを落とさせるのには最高だわ」
「せっかち者にはきびしい酒だな。長い夜になりそうだ。どれ、ひとつシリトリでもしようか」
「いきなりなによ。まあ、いいわ。それじゃお酒に合う料理名でね。まずはカルパッチョ」

チョコレート、トルティーヤピザ、ザーサイ、インサラータ・ディリーゾ、ぞうすい。

「ちょっとまって。いくらなんでも雑炊はお酒にあわないとおもうわ」
「何をいう。酒席のシメには最高だぞ。辛口の日本酒とのマッチは絶妙だ」
「わかったわ。あとで作ってあげるから、ためしてみてよね。なにかリクエストは」
「そうだなあ。やっぱり海鮮系でまとめてほしいところだ。ホタテなんかが最高だ」

さっそく白ワインで蒸した魚介類を細かくきりわけ、白ネギや三つ葉で彩りをくわえる。
いつにまにか梅酒はあき、とっておきの日本酒をだしてきた。友人からもらった新潟の銘酒だ。

「うん、うまい。どっちもいい味でてるよ。日本酒をやると、俺はゆっくりになるからなあ」
「それでいいのよ。でも雑炊は冷めないうちにたべてね。うん、本当に合うわね。発見だわ」

暑い夜長に熱い食事。ほてる体を冷ましたいところだが、いまは酒と彼女に呑まれていよう。