「今度ばかりは、もう許せない。すべてが嘘だったとはな。もう金輪際、連絡はとらないぞ」
「ちょっとひどすぎる話よね。まさか実家に戻っていただけだったとは。心配して損したわ」
「何がしたかったんだろうな。信用を失うだけのことを平気でやるなんて。呆れて物がいえない」

DVシェルターへ逃げこんでいたと思っていた女性だったが、単なる痴話ゲンカだった。

「女って基本的に受け身だから、精神的に参ると被害者意識が加速しちゃうのよね」
「もちろん旦那にも問題はあるだろうが、他人をまきこむ嘘をつくのは許されない」
「自分の行動を正当化するのに、DVを持ちだすのはダメだわね。真剣に悩む人がいるのに」
「必至になってシェルターのことや、その後の生活基盤について調べたのは何だったんだ」

もっとも、それ自体も彼女が他者へ心配をかけないように偽装しているかもしれないが。

「でもなあ。二重の嘘をつくより、素直に話せばいいんだよ。それか一切、連絡をとらないかだ」
「混乱をまねくだけの結果だから、さすがに擁護できないわ。いまでも旦那を愛しているってね」
「もう、あまり関わらないほうがいいな。彼らにとって、俺たちの非常識なことが常識なんだろう」
「欠席裁判はしたくないけど、さすがに今回はね。女の立場からも理解できないからなあ」

振りまわされるのは、生後一年もたっていない赤子だ。実家では快くむかえられているという。

「そういう問題じゃないといったところで、わからないんだろなあ。もういいや、飲もう」
「そうね。せっかく雲ひとつない夜空だから、この瞬間を楽しもうよ。ほら、よく見えるわよ」

車でちかくの山へいき、シートを
芝生へひろげてノンアルコールビールで乾杯する。
肩をよせながら、夜空の逢引きを覗き見。嘘偽りのない二つの光は、俺たちの道標となるだろう。