「なんだこりゃ、工業用油のような匂いがするぞ。さすが安かろう悪かろうの店だよ」
「そういいながら、なんで食べるのをやめないのかしら。無理しなくてもいいのよ」
「日本人のもつモッタイナイ精神が、そうさせるんだよ。どんな食べ物にも神が宿ってるのさ」

とはいいつつ、口のなかに入れるとその臭みが強烈にひろがる。これもまた経験だ。

「あの店はとことん経費を削ることで有名で、レジもベトナム人の女の子だったぞ」
「交換留学とかで来てるのかしら。なんか日本の悪いイメージを体験してもねえ」
「清潔度でいえば、こっちのほうが上なのはまちがいないから大丈夫じゃないか」
「でも若い子だったらオシャレなところで働きたいじゃない。その真逆だからね、あそこは」

人それぞれ色んな理由をかかえて生きているのだから、よけいな詮索はムダだ。
文字どおり工業製品っぽいフライドポテトをソウルフードとして、涙ぐむ者もいるだろう。

「どんな美食であっても、子供のころにしみついたジャンクフードには勝てないよな」
「あなたって、ときおりインスタントカレーばかり食べることがあるよね。飽きないのかしら」
「あれはな、素材に麻薬物質があるかのような幻覚を生じさせるんだよ。空腹中枢にな」
「しかも一食分のルーへ、ニ、三人分のゴハンをいれるよね。どっちが主役かわからないわ」

すべては貧乏だった少年時のなせる技だ。というより、意味のないチャレンジ精神がそうさせる。

「単純にめんどくさいんだよ。二食分もルーを作るのに動きたくない。メシ時は、とくにな」
「インスタントだからお湯にいれるだけじゃない。動物園のナマケモノでも、もっと動くわよ」
「とにかく、このポテトはまずい。だが俺は食う。手に入れたものは最後まで責任もつからな」

だから安心なんだけどね、と意味深に笑う。その新鮮な笑顔を保つ責任もまかせてくれ。