「まさか、そんなところで避難してるとはね。やっぱりあるのね、DVシェルターって」
「俺も初めてきいたよ。こんなにも外部との連絡を完全遮断する施設とはな」
「そこまでしないと、ほんのすこしの接点でふりだしに戻っちゃうから。あの人はとくに」

施設、保護、安全、携帯禁止、門限、規則など、それらしい言葉でのメールはあった。
かなりボカしながらのメッセージは、加害者からのメール監視を防ぐためだった。

「あくまで俺たちの推測だけど、ほぼ間違いないだろう。すべてのキーワードがそろってる」
「本当に追いつめられていたのね。気づかないでいたことに後悔しちゃうわ」
「これだけは当事者にしかわからないからな。ただあの旦那は、誰もが胡散臭さを感じてたよ」
「そうね。とりあえず二週間だっけ、滞在できるのが。実家がしっかりと受け入れてくれるかしら」

その後の状況によっては、半年間は住めるらしい。その間に、自立や離婚協議を進めるそうだ。
だが生活手段の重要性が大きい携帯電話が持てないことには、行動をかなり制限される。

「親族や友人へすぐに連絡がとれないからなあ。それが隔離する最大の効果だろうけど」
「たしかGPSの電波を察知して、加害者が場所をつきとめるっていうよね。怖い話だわ」
「人間は理性という名のスイッチが切れると、想像できない行動が簡単にやれるんだよ」
「一生おびえながら過ごす生活って、たまらなく嫌だわ。そうなる前に人生を断ちきるかも」

あまり考えたくないことをいうなと注意する。彼女も口がすべったと、すぐに反省して謝った。

「ともかく、俺たちから連絡できる手段はない。ネットカフェからのフリーメールへ返事するだけだ」
「なんかね、あなたを縛るつもりはないけど、一日一回は私にメールして。どんなのでもいいから」

それは俺も思っていたことだ。つながっていられることの素晴らしさを今夜は存分に確認したい。