「さあ、キャンプだ。わすれものはないか。まあ一泊だからどうでもいいけどな」
「女はそうもいかないんだけどね。あなただけならともかく、ほかの人もいるんだから」
「そんなに気にしなくてもいいのに。換えの下着と歯ブラシがありゃいいだろ」
「大人になるとね、いろいろと毛づくろいの準備が必要なのよ。どんなときでもね」

それほど化粧っけがあるわけではないが、やぱり人前では気になるらしい。
総勢八名が参加するキャンプという名のコテージ泊。同年代の仲間で騒ぐ予定だ。

「みんなそれぞれ結婚とかしてるから、よく都合があわせられたわね」
「そりゃ、半年前から押さえてるんだからな。これだけが楽しみで生きてる奴もいる」
「オーバーね。たしかに去年参加したときは、ずっと笑いっぱなしだったわ」
「ひたすら酒ばっかり飲んでた気がするな。料理好きが集まるから、俺は天国だった」

およそ責任ある立場で働く者があつまるせいか、その行動はすばやくてわかりやすい。
料理も次々とでてくるので、こういうときは流れに身をまかせるのがただしい。

「仕切りたがり屋ばかりだからなあ。ミツバチの論理じゃないけど、俺みたいなのが必要なのさ」
「あえてサボっているとでもいうの。まあ、あの場なら邪魔になるだけだから仕方ないけど」
「そうだろう。俺は心得ているんだよ、台所にはけっして立ち入らないってな。邪魔で結構」
「でも、みんな作るわりにはあまり食べないから、そのときはあなたの独占場なのよね」

時間はたっぷりとあるのだから、ペースを一定にたもってゆっくりと処理していけばいい。

「せっかくの休日なんだから、みんなのんびりすりゃいいのになあ。かえって張り切るというか」
「気のおけない仲間だからこそじゃない。気がねなく、やりたいことを見せたいのよ」

だが、しょせんは他人。線引きは必要だ。いまのうちに彼女の唇へ立ち入っておくか。