「例の行方不明の件だけどさ。みんなで寄ったんだよ、彼女の家へ」
「それで、今日はちょっとおそかったのね。で、どうだったの」
「それがさ、車がのこってたんだよ。しかも郵便物もぬきとられていない」
「郵便物はともかく、車はおかしいわね。あの日は雨だったから、赤ん坊との移動
車じゃないと」

もちろん抱きかかえながら身を隠している可能性もあるが、当日は土砂降りだった。
未熟児を懸命に育てていた彼女からすれば、そんな状況で車をつかわないのはおかしい。

「でさ、ドアに警官のパトロール案内の紙がはさまっていたんだよ」
「事前に誰かが通報したってことかしら」
「なんか、となりの住人が前の晩に大喧嘩した声をきいて、交番に連絡したんだと」
「で、いざ警官が訪れたときは、すでに出て行ったってことね。でも、車が気になるよね」

その後、彼女からメールがとどいた。母子ともに安全な場所にいるが携帯は持ってない、と。

「いろいろとおかしい点があるんだよなあ。俺たちが携帯で送った内容をなぜか知っているとか」
「電話は着拒否のような状態になってるわね。利用を一時停止状態にしてるらしいけど」
「それにしては流れるアナウンスがおかしい。とにかく身を隠しているには違いないが」

たんなる痴話ゲンカの果てではなさそうだ。事件性がなければいいのだが。

「とにかく子供の無事をいのるしかないな。赤子には何の罪もないんだから」
「彼女がへんなことを起こしてないかな。その状況からして、哀しい結果じゃなければいいけど」

あんな可愛い赤子がいたら、そんなことなどできない。小さな笑顔がパトロールがわりになるさ。